11.
目移りするドキドキは
どうしたら定まりますか?
ベタ11. 良心の裏側
『名前ちゃんが急に走ってくから追い掛けて正解やったわ』
『校舎出たら悲鳴ですもんね』
白石君に肩を寄せられ、光君に腰を寄せられ、両手にイケメンなんて贅沢三昧なアタシは筋肉が緩む以上に感嘆してた。(ナイスシチュエーション!)
『……う、』
『あ、変態が起き上がりましたわーどないするんです?』
白石君に殴られた頬っぺたを押さえながら身体を起こすのはいいけど、もう少し倒れててくれても良かったのに。(この時間をちょっとでも長く堪能したいじゃんか)
「うーん通報したら良いんじゃない?」
『せやな…これ以上名前ちゃんに何やされても『名前ちゃん…!通報だとか酷い!!』』
「仕方ないでしょ」
『パパが何したって言うの!愛娘の心配をするのは父親の義務なんだから!』
「パパは何でも行き過ぎなの」
『それも愛の証拠だよ』
「迷惑極まりない」
『つ、冷たい……!』
『ちょ、ちょう待ってくれへん、』
眉を歪ませて瞠若する2人、アタシとパパのやり取りに明晰されただろうアタシ達の関係。
あーあ…白石君と光君にはバレたくなかったのに、思ったってどうしようもない。
『ぱ、パパって、愛娘って言うたやんな…?』
「うん」
『まさか親子、なん?』
「否定したいけど、そうなんだよね…」
『!』
『ククッ、部長やらかしたなー』
頷くアタシを見て光君は身体を揺らせて笑うけど対して顔面蒼白なのは白石君。でもね、白石君は何も間違った事してないから!
相手が誰であろうとアタシを思うその気持ち、しかと受け止めたから…!(だけどパパっていうのはやっぱり問題なのかしら?)
「あ、あの、白石君!気にしないで、ね…?」
『……………』
「、白石く『すいませんでした!』」
「――――」
『知らなかったとは言え、名前ちゃんのお父さんに手挙げてしまったこと、本当に申し訳ないと思ってます。謝って済む問題じゃないとは分かってるんですけど…すみませんでした』
「白石君……」
逃げる訳でもなく、躊躇う訳でもなく、素直に頭を下げて自分の過ちを認める白石君は究極に格好良かった。人に頭を下げる姿なんて、早々良いものじゃないのに白石君だと何でも素敵に見えちゃって。
『……………』
「ぱ、パパ、白石君だって悪気はなかったんだし、寧ろパパに非があるんだからね」
『………ね』
「え?」
『やっぱり持つべきものは息子だよね…!』
「、は?」
『誤解されてショックだけど変質者から名前ちゃんを守る懸命な姿、誤解だと分かって素直に謝罪する姿勢…パパ感動しちゃった…!!』
『あの、』
『白石君!今日からお義父さんって呼んでくれていいからね!』
『はぁ……』
『今日は一緒に晩御飯食べようね!下の名前、蔵ノ介君だっけ?』
『そ、そうですけど、』
『そうとなれば早くお家へ帰ろうよ蔵りん!』
アタシの父親はどうやら愛に餓えていたらしい。
そんな事を考えられるくらい冷静なのは繰り広げられた茶番に困惑し過ぎたからだと思う。パパの凄まじい勢いに伸されて、されるがままの白石君も不憫で仕方ないったら…
『愛娘置いて行きましたけどええんですか?』
「いいんじゃないかな…」
『流石は親子スね』
「に、似てないから!あんな滅茶苦茶なのアタシ似てないもん!」
『どうやろなぁ?』
「似てないったら似てないし…あ、光君も来る?」
『今日は大人しく帰りますわ』
パパに無理矢理連れて行かれた白石君が心配で、どうせなら光君も家に来たら良いのにって誘ったけどあっさり断られちゃって。
アタシに気があるなら何が何でも着いて来るって思ったのにはたまた勘違いなの?(だけど光君の行動はどう考えてもアタシの事好きそうじゃん?っていうか好きでしょう!)
『まぁ、また連絡しますわ』
「あ、うん……あれ、でも番号…」
サラッと流しそうになったけどちょっと待って。白石君とは携帯番号も交換したけど光君には連絡先教えて無いよね?
携帯くらい平気だけど、また白石君に疾しい事が増える気がしてそれもどうかな、なんて余計な心配してるとさっきより強い力で引き寄せられる腰。
「、」
『名前先輩?』
耳に掛かった髪を掬われ、
(俺が何のメリットも無しに良心だけで動くと思います?)
生温い吐息で囁かれた声に全身の力が抜けた気がした。
『ほなまた』
「、っ………」
メリットも無しに良心だけでって、まさか携帯を拾ってくれた事を指してるの?
火照る身体に力を入れて携帯の電話帳を開くと、
“財前光”
登録データは知らない内に1件追加されてた。(白石君!こんな時に何でパパと行っちゃったんですか?)
(20090623)
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