「名前!」
『あれ、蔵?』
進めた足が止まる訳も無く、寧ろ勢い良く土を蹴って近付く俺は月に交わした誓いなんや頭に有るようで無かった。
「…学校は?」
『今日休みー』
「嘘吐くな」
『あ、あはは…』
「行かへんの?」
『昨日から、行ってない』
今日もブランコに乗ってる名前が昨日と違うのはブランコが揺れて無かったこと。
「何で?」
『勉強なんて別に、』
「まさか苛められとるとか?」
『そ、そんな訳ないじゃん!友達は、好きだよ』
「ほな何『蔵が居るから』」
「、は?」
『蔵に逢ったから…』
予想だにしなかった言葉に瞠若して2人の俺が生まれる。
“話する必要無いやろ?”
“どういう意味なん?”
彼女を拒む自分と、彼女を知りたがる自分。
『蔵が来てくれるから待ちたくなって、蔵が居なくなっちゃいそうで待ってなきゃいけないって』
「……………」
『蔵が居ないと嫌だ』
ブランコに座ったまま見上げる名前は眼の色を蕭蕭にして『居なくならないよね?』と今にも霧散してしまいそうなか細い声で言うた。
「何、言うてんねん…」
『だって、蔵と一緒に居たいもん…』
「阿呆…」
言葉の真髄とは裏腹に名前を包んだ腕に自分自身驚いた。
触れたい、それどころか抱き締めたいなんやあり得へん。それこそオサムちゃんや財前に聞かれたら腹抱えて笑われるんやろう。
せやけど理由はどうあれ、彼女に感化されて行動を起こしたのは謙也と同じ自分の意志やった。
『ねぇ、そういう時は“好き”って言うんじゃないの?』
「言わへん」
『まだ照れてるとか信じらんない…』
「ええから黙っとき」
俺の背中にも腕が回ったのが分かってぎゅっと力を込めると『好き』って聞こえてきて。
初めて味わう様なフワフワとした心地好さにもう一度強く力を込めた。
俺は一体どうしたいんか…どうすればええんか…決められた答えがあるなら教えて下さい。
『蔵ー、』
「うん?」
『今から時間ある?あるよね?』
「無くはないけど、」
『じゃあ行こう!』
「は?何処に、」
『デートだよ、デート!』
「え、名前っ!」
押し付けていた顔を上げるとさっきまでの憂愁さは何処かへ吹き飛んでて、期待した眼で手と手を絡めた。
小走りで引っ張られる事に動揺してドキドキ胸が騒いで。振り払う事が出来ひん自分に呆れ果てた。
「ちょ、待ってって」
『やーだ!今日はいっぱい遊ぶんだよ』
「せやけど、」
『そんな接続詞は要りません!』
「――――」
何するんやろ、どうなるんやろ、
浮かぶ緊張は最高潮で5歳の頃あの子と手を繋いで遊んだ事が過った。鬼ごっこしたりかくれんぼしたり、今思えば何が楽しいんやろっちゅう事が楽しくて仕方なかった。あの時間だけが俺の宝物やった。
その時の思いと今が重なる……
俺は名前に何を求めてるん?
←