幾ら高く翔んでも掴めない距離にある星を眺めて、浮かべる単語はひとつ。
怨恨
俺がすべき事は馴れ合いやない、12年前に意嚮した復讐を遂げること。胡乱なんや捨ててしまうんや。
「…あと5日、5日後にはもう遣れるんやから」
暗闇の中、眩しいくらいに煌めく月に誓いを立てて瞼を落とした。
□
『部長』
「、」
『寝てたんです?やっぱりアンタは面白いわ』
「なんや、からかいに来たんやったら他当たってくれへん?」
木の枝に腰を掛けて寝てた、っちゅう事に肩を揺らせて笑う財前にムッとするけど、その気持ちは分からんでもない。
謙也が例の彼女の横で寝てると聞いた時は俺でも口角を弛ませたから。何せ死神は“睡眠”を必要とせん生き物なんやから。
『すんませーん、そんなつもり無かったんですわ』
「ほな何や?お茶でもしよっちゅうん?」
『ククッ、すっかり人間臭くなってますやん』
「…悪かったな」
『厭味ちゃいますよ?』
「ええわ」
現れては人を小馬鹿にした態度を取る姿に、何時もの事やと聞き流して『オサムちゃんに会うた?』という問いに首を振った。
『ロット2で1人消えたらしいわ』
「消えたて、何で?」
『さぁ?部長ならもう聞いたんかと思て来たんやけど知らへんのや』
「見ての通り寝とったしなぁ」
『そうでしたわ』
消えた、っちゅう言い方をする辺りそれは契約終了という自発的なものやない。そうなると確かに何でやろうという疑問は浮かぶけど今の俺には正直なところ“関係無い”だけやった。そんな事より、
「なぁ財前、」
『何です?』
「謙也は、幸せなんやろか…」
不意に思ったのはソレ。
幾ら愛する人の傍に居っても自分は見えへん、話も出来ひん。それでもし…彼女に他の特別が出来たらどないするん?
状況が違うにしても俺が人間と会って喋る事が出来るって知った今、拍車かけて“虚しい”とは思わへんの?
『…俺は謙也先輩やないんで分からへんわ』
「…………」
『せやけど、今そうして過ごしてんのは謙也先輩の意思ちゃいます?』
「……せやな、」
何で俺なんかが“そう”出来るんか分からへん。謙也の方が謙也にとっても彼女にとっても幸せな事かもしれへんのに。
俺が名前と話したって…何もならへん。もしこれがオサムちゃんの仕業なら俺にどうさせたいん?どうするんが一番やって思てるん?
オサムちゃんは何処まで力があって、何処まで知ってるんや…?
『ほな、今日は俺仕事あるんで行きますわ』
「あ、あ…頑張ってな」
『頑張る事なんや有りませんて』
「ホンマ可愛くないな財前は」
『どーも』
俺はこれからどないするかな、なんて変光星みたく一瞬にして月が太陽に変わった様な感覚で空を見上げた。
『部長、』
「、」
『考え過ぎはハゲますよ?』
「、余計なお世話や」
月よりももっと眩しく光る太陽は形を隠して俺の視覚に影を作る。黒く焦げ付いた財前にもう人間ちゃうんやからハゲたりせえへんやろ、口にした言葉は耳にせず行ってしもた。
言いたい言葉を吐くだけ吐いて、ホンママイペースっちゅうか…それが財前やなって笑殺して、見透かされた脳内に笑止した。
昨晩、誓いを立てた通り俺は情念を歪めたりせん。俺はもう死神なんやから後戻り出来ひんねん。
「…え?」
パンパンと頬を叩いて、4日後を迎えるまではアイツに会わへんと身体を伸ばすと、眼に入った景色に怪訝を隠せれへんかった。
「何で居てんねん…」
時刻にして午前8時過ぎ、あの公園には名前の姿があった。アイツと会うのは昨日も一昨日も学校が終わった後の夕方やったはずやのに。
紆余曲折する情感に気付けば足を伸ばしてた。
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