『白石ぃ、機嫌良さそうやなぁ?』
歯を見せるオサムちゃんは面白そうな顔して帽子を被り直す。
そんなオサムちゃんの帽子を取り上げて眼を細めたら下を向いて鼻で笑った。
「どうせ見てたんやろ?ちゃんと説明して欲しいねんけど」
『何の事やぁ?』
「トボケんでええねん。何で人間に俺が見えるんや」
言うなり髪を掻き上げて珍しく2つの眼を見せる顔は厭に綺麗で、整った顔やからこそ少し勘に触った。
『何や、俺が格好良くてビックリした?』
「格好良え格好良え、せやから質問に答えて」
『冷たいなぁ、あの子には優しい顔しとった癖に』
「別に優しい顔なんやしてへんわ…」
何度も言う様に暇潰し、それだけ。
所詮彼女もアイツの血を引いた俺の敵やねんから。
『まぁあれや白石』
「え?」
『“霊感”強くて幽霊が見える奴居るやろ、それと同じや』
「…ほなオサムちゃんも見えるん?」
『俺は特殊やからなぁ!』
帽子を奪い取って被ればいつもと同じ片目だけを見せて笑う。
未だ俺は“オサムちゃん”の事を理解してへん。死神でもなく人間でもないオサムちゃんが何者なんか…
知ってる事と言えば女好きで、人間でも死神でも喰いモノにする欲心の塊。せやけど人間を相手にするって事は見えるって事ちゃうん?
『ええとこ気付いたなぁ白石』
「人の心ん中入り込むとか悪趣味やで」
『人ちゃうやろ?』
「……そうやけど、」
『まぁオサムちゃんについては追々、な?客人も来たみたいやし』
「客人?」
『部長ー、聞きましたわー』
オサムちゃんの言葉に首を傾げて、聞こえた声は振り向かんとも分かる主に憂鬱を浮かべた。
「財前、その呼び方どうにかならへんの」
『せやけどロット2の代表ですやん』
「個々で動いてるのに代表もクソも無いやろ」
『あー、“隊長”とか“班長”のが良かったんです?今からでも変えましょか?』
「ハァ、何でもええわ」
ロット1が東京、ロット2が大阪、それぞれ地域には番号が振り分けられてあって。
その中で身を置く死神達から1人代表格を決定する事が義務付けられてた。オサムちゃんと連絡を取り合う為やとか言うてたけど、結局話がしたい時なんやオサムちゃんが何処にでも現れるし正直なとこ意味を為してない。
『っちゅうか白石、人間と話したってホンマなん?』
「謙也まで着いて来たん?」
『お、俺が居ったらあかんのか!』
「そうやないけど…」
『“面倒臭い”っちゅう事ですわ謙也先輩ー』
『面倒臭いとかそういう言い方無いやろ!』
話が広がるの早いなぁ、そう思ただけやのに財前の悪い癖で他人をからかっては満足して。まぁ…せやけど謙也の耳には入れん方が良かったんかもしれへん。
謙也が死神になったのは彼女の傍に居る為やから。優渥だけで作られた様な謙也は彼女を庇って交通事故で死んだ。その彼女の傍に居りたいからって遣りたくもない狩りをしてるんや。
それも、オサムちゃんとの契約は“死刑囚”を狩ることで、大概酷い罪を犯してる囚人やのに謙也はそれでも毎回『堪忍』と謝ってるらしい。
せやから、彼女と会話が出来ひん謙也には知られん方が良かったんかもしれへん…
『で、部長?その人間と付き合うてるって?』
「話飛びすぎやろ」
『違うん?オサムちゃん』
『大方正解やろー』
「ちゃうわ、名前が勝手に言うてるだけやろ」
『フーン、名前って言うんや?』
「財前」
『目くじら立てんで下さいって』
初めて呼んだ名前に少し緊張した。初めてやのに、何でか懐かしい気さえして…
『…そか、白石は話せるんやな…』
「……………」
そんな事より、横で哀感を浮かべる謙也は見てられへんくて流石の財前も視線を流した。
財前やってそうや。『面白そうやったから』とか言うてたけど触れられたくない理由がある筈で。皆各々の想いを抱えて死神の道を選んだんや。
『部長?何処行くんです?』
「散歩や」
『散歩、ね?』
含んだ表情の財前は俺の全てを見透かした様に『深入りしてもええ事無いで』と耳打ちした。
深入りなんか…そんな事する訳ない。
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