carlin' you | ナノ


 


 03.



「暇やなぁ…」



彼女を眺めても特別面白い事なんやなくて、本来なら直ぐにでもあの血を引く者全ての人間を狩ってやりたいのに死神にもそれなりに掟っちゅうもんが存在した。

まずひとつ。
“渡し守”であるオサムちゃんとの契約時に狩ると決めた人間以外手を掛けたらあかんっちゅうこと。

ふたつ。
当事者が死ぬ、つまり寿命である2週間前迄は手を出せへんっちゅうこと。

みっつ。
死神に狩られた人間は天国にも地獄にも行けへん、それを絶する恐怖の中で死に生きるらしい。
輪廻転生なんちゅう言葉もあるけど勿論そんなことは人間として去った輩だけや。

よっつ。
契約した人間全てを消した時には新たに契約を結ぶか、それとも消滅するか…それは自由やと言われた。



「死神も難儀やわ」



人間の寿命なんや長い奴も居れば短い奴も居る。
生憎“旦那様”の寿命は7年後の肺癌で、これから7年も待ち続けなあかん。幸いにも“娘”は3週間後に交通事故死で、1週間後には狩れるけど結局復讐を遂げるには7年も呑気に当てもなく無意味に過ごすだけやねん。
今でも両親を思うと憎悪が膨らむに膨らんで復讐の心は止まへんけど反面、こんな無駄な時間を過ごさなあかん死神の道を選んだ自分にも失笑せずに居れへんかった。

せやけど全ては父さんと母さんの為。人の命を物にも見てないアイツ等には“責務”を知る必要があんねん。



「…財前にでも会いに行こかな、」



此処で暇を持て余すのも何やし、そう思て羽根を拡げようと電柱の上に立ち上がった時やった。



『あ゛ーーーーっっ!!!』

「、」

『そそそんなとこで何してんの!自殺する気!?駄目よそんなの!早く降りて来て!や、早くじゃ危ない、ゆっくり降りて来てー!!』



不意に叫びだしたのは今まで俺が眺めてた“目標物”である彼女で、人間には俺が見えへん筈やのに明らかこっちに視線を向ける彼女に眉を寄せた。



「…俺が、見えるん?」

『え?何言ってんのか聞こえない!誰か人呼んだ方がいい!?ねぇ大丈夫!?』

「だ、大丈夫や!」



流石に人を呼ばれるのはまずい。拡げかけた羽根を体内に仕舞い込んで人間らしく電柱を蔦って地へ足を降ろした。

…っちゅうか別に人呼ばれたって良かったんちゃうんか?他の人間には俺が見えへん訳やし、彼女が変人扱いされて終わったんじゃ…



『ね、怪我とか無い?』

「…別に」

『ハァァ、良かった、超ビックリしたんだから!』



大袈裟と言わんばかりに胸元に手を置いて息を吐く彼女を惘然と見てると、視線がぶつかった瞬間、彼女は瞠若した様に眼を真ん丸くさせた。



「、何や」

『あ…ううん、何でもない…』

「……………」

『そ、それより何してたの、あんなとこで』

「気分転換?」

『はー、変な人』



お前に言われる筋合い無いわ、突っ込みたい気持ちを抑えてその場を後にしようと背中を向けると、



『待って!』

「――――――」

『暇でしょ?ちょっと話しようよ』



掴まれた腕は確かに彼女の体温を脳に伝えた。



「…ええよ」



何で頷いてしもたんかは分からへん。自分が憎んでる相手に、殺すだけの相手に、何も話なんや無いのに……

ただ、久しぶりに感じた人の体温に少しだけ懐かしさを覚えたんや。人に触れた、なんや何十年ぶりやろうか……





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