carlin' you | ナノ


 


 02.



あの日以来、俺に『君の両親は君を置いて遠くの地へ行ったんだ』と出鱈目を並べるアイツ等に憎悪は膨らむ一方やった。

金を積んで“不幸の事故”と片を付けた事も全部知っとるのにアイツ等への復讐の機会を待ってた俺は知らん顔で頷いてて。
そんな時、1人の女の子に出逢った。



『ねぇ、名前何て言うの?』

「…誰や」

『ここに住んでるの』

「、親が雇われてるん?」

『うん』

「そ、か」

『変な顔してたけどお腹空いたの?』

「別に」

『これあげるから遊ぼうよ』



同じ歳くらいの子が他にも居てるなんや知らへんくて、嬉しいと思うよりこの子の両親も俺の両親と同じく酷い様にされるんやろうなって…憐れむ気持ちのが大きかった。

せやけどその子が差し出した苺の飴がめっちゃ甘くて美味しかったのは覚えてる。
外に出る事が無かった俺に初めて出来た友達やった。毎日、とはいかへんけど2日に1回は屋敷の屋根裏で色んな話して、かくれんぼしたり、久しぶりに楽しいと思える時間がやってきたんや。

それでもやっぱり、楽しい時間は永く続く筈が無かった。



「あ、今日は何して――…」

『蔵ノ介君、ちょっといいかな?』

「…………」



ガチャ、と開いたドアの先には彼女が居ると思たのに幾分大きい身体は俺が嫌悪を抱くアイツ。



「だ、旦那、様…」

『蔵ノ介君にお話があるんだ』

「何ですか…」

『これ、何かな?』

「!」



アイツが手にしたモノは小さく真っ暗な欠片で、俺が大事に持ってたモノやった。

何でアイツが持ってるん?まさか俺の部屋漁ったん?それよりこの物言いはソレが何か、バレてるんちゃう…?



「か、返して下さい!」

『何でこんな物持ってたのか聞いてからじゃないと返せないよ?これは“焼け屑”だよね?』



そうや。
あの日全てを燃やした時、唯一残った自動車の燃え殻。父さんと母さんの、存在を示した遺品そのもの。

気が付いた時には父さんと母さんが始めから居てへんかった様に、服や荷物、写真も全部処分されてた中で唯一俺に残されたモノやった。



『まさかあの時あそこに蔵ノ介君が居たとはね、私も知らなかったよ』

「…………」

『あれは不幸な事故だったんだ』



その瞬間『分かるだろう?』と笑うアイツは欠片を踏み付けて形も無い粉々に姿を変えた。

父さん、母さん……

2人が居なくなっても、アイツは侮辱するんや。



『勝手な事をする子にはお仕置きが必要だな』

「、っ!」



空気中に渇いた音が響いて俺の頬はジンジンと痛みが走る。
今まで誰にも殴られた事なんや無くて、初めて味わう感触に堪え切れず泣きたくなったけど…父さんと母さんはもっと痛かった筈やねん…



『蔵ノ介君、明日は君に“お仕事”があるから頑張って貰わなくちゃいけないんだ』

「…お仕事?」

『そうだ、蔵ノ介君にしか出来ない重要な仕事だよ。ちゃんと頑張るって約束してくれたら、今回の事は許してあげよう』



子供ながらに何か危機感を覚えた。
“仕事”に託けて危ない何かをさせる様な、そして掃討する、そんな気がして背筋が凍る。



『じゃあ、今日は明日の為に良く寝るんだよ』

「…………」



バタン、とドアが閉まった瞬間腰が抜けたみたいに尻餅を付いて。悚然とする俺にアイツは笑ってた。
もっと俺に力があったら、
もっと俺が大人やったら、
そう願わずには居れへんくて心底アイツに憎心が募る。

そんな時何処からともなくドンドン、と壁を叩く音が聞こえて。



「なんや…?」

(……け、くらの…け!)

「、」



壁の中から微かに聞こえる声はあの子で、小さく囲われた不自然な箇所に近付くと『くらのすけ!あけて!』確かに聞こえた。

開けろ、言われても…どうやって開けたらええん?取っ手がある訳でも無いしドアノブがある訳でも無い。っちゅうか何でそんな所に居るん?そう思てるとソレが落ちて来た。



「か、壁が取れた…?」

『早く開けてって言ってるのに!』

「あ、あんなん開けれる訳無いやろ!」



身を縮めて現れた彼女に瞠若したの束の間、彼女は俺の肩を掴んで懇願した。



『蔵ノ介逃げて!』

「え、逃げてて、」

『こんなとこに居ちゃ駄目だよ、蔵ノ介は逃げて!』

「せやけど、」

『明日が来る前に逃げなきゃ、コレ通風口だから外に行けるから、』



彼女が嘘を吐くとは思えへんくて、必死になって俺の事を考えてくれてるのが分かって。
理由は聞かずとも“そうするべき”なんやって汲んだ。



「逃げたら、ええねんな?」

『うん!早く!』

「ほな一緒に、」

『駄目だよ、アタシは大丈夫だから』

「そんなん俺1人で逃げるなんや…」

『後で追い掛けるから』

「…絶対?」

『うん』



小指と小指を絡めて“約束”を交わした俺は狭い道を進んだ。
厭に冷えた風に辺りながら匍匐して、煤汚れた真っ暗な道を真っ直ぐ真っ直ぐ進んだ。

せやけど、光が見えた世界に行き着いたところで俺は交通事故に遭って約束は果たせへんかったんや。
俺にとって自動車は因縁っちゅう鎖で結ばれてるんかなって…不思議と冷静に過った。









(あー、こんな子供が俺ん事呼ぶなんや思わへんかったなぁ)


誰?誰が喋ってるん?
呼んだって何の事や…?


(えーと“白石蔵ノ介くん”?俺はオサムちゃんや宜しくなぁ?)


オサムちゃん?何やねん、誰やねん、俺は死んだんちゃうん?


(せやなぁ、死んでしもたなぁ)


死んだのに、何で会話出来んねん…意味分からん…


(君が“後悔”したからや)


え?後悔?


(オサムちゃんと、契約しよか?)


何言うてるん…?


(やり残した事、あるんやろ?)



悪魔の取引に乗った俺は5歳で終わった人生と引き換えに死神の人生を始めた。





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