carlin' you | ナノ


 


 01.



『お、今日も暇そうにしとるなぁ』

「そういうオサムちゃんも十分暇そうやけど?」

『白石ぃ、俺は可愛い子羊ちゃん達の相手があるんやから忙しいんやでぇ?』

「人間やない癖に節操無くて能天気なとこが羨ましいわ…」

『なんや失礼やなぁ?白石みたいに根暗過ぎるんも考えもんやで?』

「しゃーないやろ…」



青々とした空の下、電柱の上で胡坐をかいて地上を見渡す俺にケラケラ馬鹿にしたような笑いを出すのはオサムちゃん。

俺を“救ってくれた”恩人。
そして人間では無い男。



『あー、次はあの娘なん?』

「せや、あの娘」

『それで終わり?』

「まだ父親が残っとるわ」

『フーン、親父より先に死んでしまうなんや可哀想やなぁ?あんな可愛えのに』



オサムちゃんが食べてあげたいわー、とか阿呆な台詞を横目に彼女が歩くのをじっと眺めてた。

彼女を殺すまで後1週間。
彼女の父親を殺すまで後7年。
そこでやっと俺の復讐劇に幕を落とせるんや。長かった、めっちゃ永い数年やった。



『白石、終わったら、どないするんや?』

「さぁ…どないしよか…」

『今度こそ、死ぬ?』

「…それもええかもしれへんな」



鼻で笑いながら『そうかぁ』と適当な返事をしてオサムちゃんは帰っていく。

翼を広げて翔ぶ姿は白鳥の如く綺麗であって、同時に醜い。小さい頃に“鳥みたいに翔べたら”なんて願った事もあるけど人間は小さくて翔ぶ事が出来ひんからこそ自由な人間で居れるんや。

羽根が生えたって、俺は自由になんかなれへん。



「もう、12年になるんやなぁ…」



12年、俺が人間を棄てて“死神”となって過ごした月日。当時5歳やった俺がそうなろうと決めたのは簡単な話やった。


貧富差別が凄まじかったあの時、世間は金ひとつで偽りも事実に変えていた。
そんな時代に生まれた俺はそれなりの富豪家に家族揃って住み込みで仕えてたんや。子供の俺が何かしてた訳やないけど、父親と母親は必死に働いてた。掃除、洗濯、料理に始まってあらゆる世話をしたり質の悪い遊びに付き合うたり…昼間は両親の背中を見る事しか出来ひんかったけど、それでも夜の静けさに包まれたら優しい父さんと母さんが傍に居って、子供ながらに幸せやった。保育所にも行けへんかった俺は、夜だけが楽しみやったんや。


ある日、その小さな幸せさえも奪われる日がやってきた。



『白石、試作品が出来たんだ』

『おお、素晴らしいですね!おめでとうございます』

『ちょっと乗ってみないか?』

『私がですが?そんな、宜しいんでしょうか大旦那様』

『良いから、働き詰めだしたまには夫婦水入らずでコレで出掛けてみてはどうだ?』

『そうだ、お祖父様は良い事を仰る!』

『あ、有難うございます大旦那様、旦那様…!』



そこには父さんと大旦那様と旦那様と親族と、玩具によくあるブリキ製の高級車の様な自動車があった。趣味で開発していたらしい自動車を上手く行けば経営まで持っていこうか、そんな感覚やったんやと思う。
せやけど幼かった俺は“試作品”の意味さえ分からず格好良い、そればかりで見惚れるだけ。

こんなモノに乗れる父さんは凄いなって、格好良いなって、大旦那様は良い人やって、そう信じてた。



『では行って参ります』

『帰って来たらコレの調子を聞かせてくれ』

『畏まりました』



今日は駄目でも俺もいつか父さんと母さんと3人で乗る事が出来るんちゃうかって信じて、車に乗り込む2人を好奇心いっぱいで見つめてた。

せやけどエンジンを掛けて発進しようとした瞬間、



「―――――」



けたたましい音を出して炎を上げる自動車。灰色の煙が黙々と立ち込めて、真っ赤に染まる車は俺の身体の全神経全細胞を制止させた。

何が、起きたん…?
父さんと母さんは、何処に居てるん…?

次第に震える口唇からは声を上げる事も出来ひんくて、茫然と立ってる事が精一杯やった。
周りでは別の付き人や執事達が必死に水を掛けるのに、そんな中で聞こえてきたのは大旦那様と旦那様の笑い声。



「わ、笑って……何で、」

『ハッハッハッ、やっぱりあれじゃ動くはずないな』

『お祖父様がエンジンオイルを注ぎ込まなかったからですよ人が悪い』

『それは問題ないだろう?それよりお前がエンジンにガソリン撒いたせいじゃないのか』



要はガソリンが引火したっちゅう事で、敢えて起こした事故?
偶然起きた事故やなくて必然的な?
全ては仕組まれてて、父さんと母さんは殺された?



『白石の奴使用人の癖に私に恥をかかせたんですよ?許せませんよ』

『あー、この前の麻雀で負けた事か。お前の腕が無いだけだろ』

『ハハハ、お祖父様も厳しいな』



麻雀で負けた、それだけ?
たったそれだけで俺の父さんと母さんは殺されたん?
そんな理由で火が噴くのを笑って見てられるん…?



「……許せへん、」



絶対、絶対、許せへん

否、許さへん


(蔵ノ介)

(今日もいい子にしてくれとったんやな?)

(偉いで蔵ノ介)

(蔵ノ介は父さんと母さんの自慢の息子や)


俺の復讐劇の原点はそこからやった。





…prev…next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -