carlin' you | ナノ


 


 12.



それから1週間、俺は1日も欠かさず名前に会いに行った。
暇潰し、そんな感情も棄てて自分が思うまま“逢いたい”っちゅう気持ちだけを優先して公園に通った。



『くーらっ、今日は何しよっか?』

「うーん、何でもええよ?」

『何か無いの?したい事とかさ!』

「せやなぁ…」



名前が死ぬまで後3日。
名前を殺すまで後3日。

正直、俺は迷ってた。



「俺ん事好きなんやろ?」

『うん!好き、大好き!』

「せやったら何処が好きなんか言うてくれへん?」

『えー、いっぱいあるんだけど』

「全部言うて?」

『顔が格好良い!それからー、意地悪な時もあるけど優しい!』

「他には?」

『アタシを見てくれる眼が暖かい!』

「……………」



こうやって過ごす時間が楽しいと思う自分が居って、もっと俺の名前を呼んで欲しいと思う自分が居って……せやのに殺す、なんや間違うてる気がしてた。

どのみち3日後に死んでしまうなら俺が、とも思うけど気が引けるんや……



『蔵はまだアタシの事好きって言ってくれないけど、蔵の眼とか身体とか、色んな好きが伝わってくるの!』

「…嬉しいん?」

『当たり前じゃん!愛されて嬉しくないって思う人なんて居ないよ』

「ハハッ、自信過剰や」

『またそんな事言って!いいもん、アタシは好きだもん』

「そない俺ん事好き?」

『愛してるよ?』

「そか」



当然やけど、死神になって誰かから愛された事が無い俺は名前がくれる言葉に癒されてた。

“好き”
耳にする度に擽ったくなるくらい頬が緩んで
“愛してる”
紡がれる度に火照る身体を顔を隠したくなる

そんな俺に名前の命を奪う事が出来るんか…?
紆余曲折な心情は此処まで俺を変えてた。



「名前、今日はこのまま一緒に居らへん?」

『このままって、ずっと、ってこと…?』

「うん」

『家に帰らずに夜もずっと?』

「うん」

『…やだ、嬉しい!蔵とずっと一緒なんて初めてじゃん!やだーどうしよう!』

「ホンマ大袈裟やな?」

『だから!本っ当に嬉しいんだってば!』



タイムリミットを惜しむ様に口にした言葉を以前と同じく喜んでくれる名前がやっぱり可愛かった。

名前が消えて無くなる迄はこのまま、このままずっと隣に居りたい。それが俺の今の願いやった。



『ねぇ蔵、じゃあ今日は『名前』、』

『何してるんだ?』

「―――――」



せやけどそんな願いは幻想やと気付くのに時間は掛からへんかった。



『お、お父さん…』

『最近学校にも行ってないそうじゃないか。そこに居る男にたぶらかされてるんじゃないのか?』

『ち、違う、蔵は、』



突如現れたのは久しく見る俺の怨恨。
眼に映すだけで吐き気がするアイツは7年後まで会うつもりなかったのに。何でこのタイミングで…

腹が立つ、憎い、今すぐ殺してやりたい、
沸き上がる感情に顔が歪んでいく。



『ほう、“蔵”と言うのか、名前通り閉じこもっていればいいのに』

『お父さん!!』



今になっても変わらず俺を、父さんを、母さんを侮辱するんやな…

一気に夢幻から醒めた瞬間やった。



『ほら、帰るぞ』

『やだ!離して!』

『こんな汚い男と関わるのは止めなさい、お前にはもっと良い人を与えてやる』

『あ、与えるって何?!人を何だと思ってるの!』



せや、アイツは自分以外の人間はゴミ以下やとしか思てへんねん。有益ある人間やないと人間としか思わへん。
名前はそんな男の血を引いた女や。



『いいから来なさい』

『嫌だって言ってるじゃない!蔵、助けて、蔵っ!』

「…………」

『その男も理解した様じゃないか。物分かりがいいところだけが取り柄だな』

『違うもん、蔵はもっと、「名前」』

『…くら?』

「さよなら」

『―――っ、』



そして俺は名前の前から姿を消した。
この19日間は儚い夢物語やったんやと諭して。





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