darling | ナノ


 


 06.



好きになったら好きだけじゃ居られないんだよ


綺麗な気持ちも醜い気持ちも溢れるから特別になるの






pulsation.6 嫉妬×嫉妬






「ひーかーるー」

『なん』

「痛い」



右手にラケットを持った光は地面と空を行き来するボールを跳ねされるのに、左手では何でかアタシの頬っぺたをブニブニ掴んでは引っ張って。
軽く痛いんですが?



『痛ないやろ』

「痛いです」

『ほなその仏頂面止めや』

「ぶ、仏頂面は光でしょ!?」



部活中にも関わらず謙也と一緒に居る由希ちゃんを眺めて8割増しの仏頂面なのは光じゃん。

従姉妹だからって何?
そんなに心配なの?



『…呆れてんねん』

「由希ちゃんに?」

『阿呆、ゆきにや』

「な、何でアタシ!?心配ならそう言えばいいじゃん!由希ちゃんが謙ちゃんに盗られて悔しいんでしょ?」



光の手を振り払って言い切ったアタシにシワを寄せて怪訝な顔をする。ほら、図星なんじゃない。



『仏頂面止めろって言うてんねん』

「いい痛い!いた、いひゃいっ!」

『止めるん?』

「わかったから、やめへ!」



絶対赤くなってる…
さっきよりも強く引っ張られてジンジンする頬っぺたを擦って、光を一瞥すると視線は見下されてるみたいで。



「光だってそんな顔してるじゃんか…」

『せやから呆れてんねん、何でゆきは由希に妬くんか思て』

「え、」

『由希を見る眼、釣り上がっとる』

「…………」

『謙也先輩盗られて嫌なんはゆきちゃうん?』



確かに、由希ちゃんの存在は好ましくない。
謙也と上手くいって微笑ましい、なんて思ってたけど謙也が知らない人みたいで寂しい。
だけど本当はそうじゃない。



「…嫌、なの」

『由希が謙也先輩と付き合うのが?』

「ちがう」

『せやったら何が』

「光と、思い出がいっぱいあるのが…いやだ」



だってね、言ってたでしょ?
“光君の奥さんは由希やって約束したやん”って。

従姉妹だもん、小さい頃から知ってて当たり前。歳だって近いし仲良くて当たり前。
でも何か悔しいじゃん…昔の光を独り占めされてるみたいな…



『…あほ』

「阿呆だもん」

『ゆきは昔の俺と付き合いたかったん?』

「そうじゃないけど…」

『あの話やって勝手に由希が言うとった事やしアイツは謙也先輩しか見えてへんねん』

「…………」

『俺は、ゆきが好きなんやけど』



“不満、ある?”

珍しく遠回しじゃ無しにストレートで言ってくるもんだから肯定出来なくて。そんな光も格好良いけど、格好良いからムカつく。



『はい、不満無し、終わり』

「ちょっと!まだ無いとは言ってな、」

『あるん?』

「っ、」



物っっ凄い近距離で顎を捕まれたらまたアタシの負け。

ドアップの光がアタシの視覚を占領して、キスされるよりもっと恥ずかしくてもっとドキドキしちゃう。

蔵も大概善い性格してるけど、そういう意味じゃ光だって負けてないと思う。



『“拗ねてごめんなさい”が聞こえへんけど』

「べ、つに、謝る事じゃないでしょ…」

『…フーン?』

「あ、謝らないもん!」

『ほな『すんませーん!!』………』

「、」

『野球部のボール入ったんで取って貰えますかー!』

「あ、はーい!アタシ行ってくるね光!」

『1年に取らせたらええやろ…』

「いいからいいから」



上手く光から逃げられた、なんてしめしめなアタシは、



「どーぞ」

『あ、おおきに…』



手渡した野球ボールが災いの元なんて考えもしなかった。

今日は光の思う通りにさせてやんないんだからと意気揚々に光の元に走っただけ。





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