05.
幾ら繋がれても
言葉の“好き”は世界を救う
pulsation.5 精一杯の愛ラブユー
「ね、ね、謙ちゃん、痛い」
『あ、堪忍…』
謙也の手が離れるとそこはじんわり赤くなってて、それだけ謙也の力が込められてたんだと分かった。
「あの、謙ちゃん」
『ん?』
「あの子、」
『あー…』
あの子誰?
聞きたくて仕方ないのに謙也は哀感のような愛眼なような、そんな笑顔を向けるから言葉は続かなくて。
『ゆきが心配する様な事は何もないで?』
こんな風に頭を撫でる謙也なんて見たことないから
何を返したら良いのかさえ分からなくなった。
『っちゅうか、白石遅いなぁ』
「う、ん、オサムちゃんのとこ寄るって言ってたよね」
『…早よ部活始めたいねんけど』
「謙ちゃん…?」
持っていたラケットだけを眺めて『ハァ…』溜息ひとつ。
普段馬鹿みたいにはしゃぐ謙也からはこんな色っぽい所があるのは想像つかなくて、ちょっとだけ、格好良く見えた。でもどうして謙也はそんな顔するの?
『ゆきー、』
「うん?」
『腹痛いから帰るって言うたらアカン?』
「え、お腹痛いの?」
『腹っちゅうか、胃、やな』
「ちょっと大丈夫!?」
胃が痛いからそんな顔だったんだ、と自己解釈して謙也の方を向いた時、凄い勢いでラケットが落ちて来たのが見えた。
『い゛っっだっ!!!』
「け、謙ちゃん、」
『何拗ねくれてるんやヘタレ先輩』
それは光の手から振り下ろされたもので、ガンッと良い音がしたんだからきっと凄まじく痛いと思う。それなのに飄々とした態度を変えない辺りやっぱり光っていうか…
『何すんねん財前!頭割れるわ!』
『どうせ石頭やし鶏みたいな髪なんやから大した事ないですわ』
『殴り掛かった上に失礼過ぎや!』
『何で殴られたか分かってますよね』
『…それ、は……』
『分かっとんならさっさと行って来いっちゅう話や』
『せやけど、』
『行け言うてんねんヘタレ』
『せ、せやから暴力は止めんかい!』
続いて背中を蹴り付けて謙也を追い出す光に“先輩”という単語なんて存在しないんだろうなって他人事みたく感心したけど。
『で?』
「え、」
『ゆきも何やってんねん』
「…な、何って」
訳の分からない2人の会話に引き続きアタシに対しても不可解な言葉を並べて来て。
どっちかって言うと、光の方があの子と何してたんだって話なんですけど?
『勝手に触らせて連れて行かれて、されるがままって何や?』
「べ、別に変な事してた訳じゃないし!光だって、」
『うっさいわゆき』
「、んっ!」
問答無用で繋がった口唇は柔らかくも生暖かいモノが突っ込まれて口内も脳内も“光”で埋め尽くされる。
光、
ひかる、
光でいっぱいいっぱいになったところで舌を出したまま離れるもんだから途端羞恥心が沸き上がって、どこまでも狂わされるの。
「っ、」
『ほな、行くで』
「行く、って何処に、」
文句なら沢山言いたかったのに、冷えた指を絡められたらそれだけで「もういいや」って思っちゃう辺り惚れた弱みって言うの?
大概馬鹿だとは思うけど光の手がアタシの体温で暖かく中和されたらいいなって。
「ねぇ、何処に行くの―――、」
何も言わず手を引かれるもんだから聞いたのに、目の前には真っ赤になった謙也と真っ赤になった“由希”ちゃんが居て。
『ええ加減俺ん事呼べや!』
『…………』
『由希の第一声が財前なんや嫌やねん!』
『…どういう意味やねん』
『す、すす、好き、やっちゅう事やろ…!』
『謙也君のあほ…』
ああ、そういうこと?
素直になりきれない2人に見てるこっちが照れちゃいそうな告白に絡まる指はぎゅっと音を出した。
(いや、初々しいね…)(世話焼けるわ人ん事ダシに使て)(でも謙ちゃん頑張ったじゃん?)(俺は無しやと思うけど)(っていうか結局誰なのあの子)(俺の従姉妹)(え!?)
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