darling | ナノ


 


 02.



愛くるしい愛くるしい、


何でこんなに好きなんでしょう?






pulsation.2 可愛い人






「ひかる、」

『……………』

「ひーかーるっ」

『……………』

「いい加減機嫌直してよー…」



昼休みの淫蕩も夢だったみたいに、卑猥なんて言葉が似つかわしくない爽やか過ぎる放課後。
すっかり馴染んでしまったテニス部で、頬杖付いた光は頑なに口を閉じて何処か遠くを睨んだ顔。それは不機嫌そのものがひしひしと伝わって、重力に負けた様にアタシの眉や口が地面に向かって下がってく。



「ねぇねぇ光ってば、」

『…、ハァ……』



そんな大きな溜息吐かなくてもいいんじゃない?っていうかそこまで怒らなくてもいい事でしょう?

事の発端は5分前。
柔軟と走り込みが終わって暫しの休憩に入った時だった。光にタオルを渡した瞬間に鳴り響くのはアタシの携帯で、当然の如く『誰?』という視線を向けられたアタシは正直に「隣のクラスの唐津くん」って答えたんだ。



『誰や唐津って』

「だから隣のクラスの人」

『ソイツが何て?』

「明日歴史の資料集貸してって」



去年同じクラスだった唐津くんとはそれなりに仲良くて、クラスが別れた今もこうしてメールが来たり話したりしてたもんだから始めは「アタシの事好きなんじゃない?」なんて調子乗ってたけど。
実は最愛の彼女が居て、ただのアタシの自惚れだったわけ。アタシだって光が好きだったし、別に良いんだけど少なからずガッカリな気持ちがあったのも本当だったり…

だから唐津くんは無駄に分厚い資料集を持って来るのが面倒臭いだけでアタシを利用してるだけなんだ。今まで逆に借りる事もあったし、お互い様ってやつ。



『何でゆきなんや』

「な、何でって言われても…」

『忘れた訳ちゃうんやし自分で持って来たらええ話やろ』

「…まぁ、そうだけど……」



っていうか何々、まさか光妬いてるの?
え、男の子からメールが来ただけで嫉妬するの?

やっだ!超可愛いんだけど…!
ねぇこれ写メっとくべき?待ち受けにするべきでしょ?!
……なんて、そんな浮かれた考えは浅はか過ぎた。



『こない堂々と浮気するんスね、ゆき先輩?』

「え、」

『さ、俺は休憩しよ』

「ちょ、ちょっと光!?」

『あー疲れた疲れた』



幾ら言ったって“先輩”って呼んでくれなかったのに…
敬語なんて滅多な事で使わなかったのに…


あれは相当怒ってる


それから5分、光はへそを曲げたままアタシと口を聞いてくれない。
光が嫉妬してくれて嬉しい、本当に嬉しかったけど…だけど口を聞いてくれないのはそれ以上に寂しい。



「…………」

『…………』



ねぇ、そんなに怒らなくたっていいでしょ……アタシが拗ねたくなるじゃん。



『…、ハァ……』

「ひか、」

『ちゅう』

「え?」

『ちゅうで許したる』

「……………」



……やっばい。
何それ?超可愛いんですけど。
さっきまで黙りだったのに今度はちゅー?

危うく拗ねくれそうだったアタシは一気に爛々として光の口唇に飛び込んだ。



「ちゅう、したよ?」

『…も1回』

「うーん、何度でも!」



ちゅ、ちゅ、と軽い音が響く中『仲直り』と聞こえた光の声にまたも愛玩した。
途中で蔵に邪魔されたけど今日の光はとっても可愛かったです。





  □





「あれ、送信画面?」



無事に仲直りをして部活が終わった後当たり前に携帯を開くと、メールを送信した覚えも無いのに画面は“送信しました”の表示。

何かと思って履歴を開けたら宛先は唐津くんで。


(悪いけど勝手に人の女に近付かんで下さい)


初めて送信メールを保護したアタシ。




(ひっかっるー!)
(ん)
(光好き!愛してる!っていうか愛くるしい!)
(誰が愛くるしいて?)
(ひかるんが!)
(…どっちが“愛くるしい”か分からせたるわ)
(是非濃厚ちゅうお願いします!)





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