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 07.



あの人が両手を広げれば


青空も世界も笑う





impression.7 flyaway





謙也先輩が“今”に来て1週間。
俺も初めは信じられへんかった。頭ぶつけて『過去に戻った』とかぼやいた時にはホンマにこの人可笑しなったんちゃうかって。

せやけど今までの謙也先輩は部長と名前先輩に対して遠巻きにしか見てへんかったのに、今此処に居る謙也先輩は必要以上に2人の傍に居る。2人を見て、安堵する表情を浮かべるんや。
そんな顔見せられたら、信じる信じられへんも無いやろ?



「大概、阿呆スわ」



せやのに踏み込んだ一歩に自分で傷付いて眉下げて。



『しゃーないやろ』



見とるこっちが痛いですわ。
名前先輩の事好きなんやろ?過去に戻って来たんは奪い返す為ちゃうん?



「…そんな事する為に戻って来たんですか?」

『ざ、いぜん?』

「わざわざ未来から戻って来てまで部長ん事応援するん?」

『…き、気付いてたんか?』

「そら気付きますわ」

『……………』

「頑張り過ぎて阿呆や」



アンタが優しい人やっちゅう事は分かってます。気持ち押し殺して譲るくらい友達を大事にしとる事も知ってます。
でも、何処かで納得してへんから戻って来たんちゃうんですか?せやないと、ホンマにただの阿呆スわ…



『財前、未来は変わるんやろか…』

「その為に来たんちゃうん?」

『…せやな』

「とっとと謙也先輩が言うたらええ『アカン!!』」

「謙也、先輩?」

『そういう問題ちゃうねん…』



もっと、考えてから言葉を出せば良かった



「何があったんスか?」

『…名前が、植物人間になってしもた』

「え…?」

『俺のせいやねん、俺がもっとアイツ等の事見てたら良かったんや…』

「……………」



まさかそんな未来が存在するやなんて誰が想像するんや?

優しくて人想いが強いからこそ何か理由があるって分かってたのに。自分の欲望の為だけに未来を変えたいと願う人やないのは分かってたのに。

謙也先輩から溢れ落ちる雫を見て、軽はずみに発した言葉を取消したくなった。



「すんません…」



安堵する笑顔は“皆が笑ってる未来”を願ってたんやって、やっとリンクした。



『な、何謝ってんねん…財前が謝るとかめっちゃ気色悪いわ』

「今日は聞き流したりますわ」

『何を偉そうに……っ、』



“堪忍”

聞こえて来た小さい声に俺は気付かんフリして部室を眺めてた。
一雨降れば必要でない過去も未来も、謙也先輩の涙やって消えるかもしれへんのに。生憎にも今日は厭に月と星が光ってますわ…





  □





『ひっかるー!おはよ!』

「、やけに大荷物っスね」



俺が全てを知った翌日も、名前先輩は相も変わらず笑ってた。



『えへへー、実はね、』

「、」

(今日泊まりに行くんだ)



耳打ちするなり、くしゃっと笑う顔は照れ臭さそうに頬を染めて大きな鞄を抱き締める。



「名前先輩、幸せですか?」

『えー?どしたの急に』

「ええから答えて下さい」

『うーん…幸せ、に決まってるじゃん!』

「ならええっスわ」



なぁ謙也先輩。
名前先輩は今日も幸せやって笑ってますよ。それでええんやろ?アンタが描く未来、俺も楽しみにしてますから。


タイムリミットは残り6日。





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