06.
君の為に
僕は何度も強くなる
impression.6 existence
『…謙也、何やソレ』
「何て、何が?」
『右手の包帯や包帯!』
「あー、コレか」
財前に“痣”を見られて1週間が過ぎた頃、日毎に濃くハッキリと現れていったソレは酷い火傷みたく赤褐色に形を変えた。
痛い訳でも無いし、別に傷痕がどうこうする訳ちゃうけど…ソレを隠さなアカン理由があったんや。
『まさか俺とお揃い、とか言いたい訳ちゃうねんな?』
「“お揃い”ええやん!包帯捲いたら今日の小テストもイケる気がすんねん」
『イケる訳ないやろ…』
包帯を捲く事で痣を隠す理由、それは痣が消える事にあった。
人の肌とは思えへんほど確実に色濃くなるのとは裏腹に1日1本消えていく痣。手首から肘にかけて14本あった線状のモノは既に半分に減った。
きっとそれは、俺が“此処”に居れるタイムリミットを知らせる為のモノ、つまり後7日しか無いっちゅうこと。
「嬉しいなら嬉しいってハッキリ言わなアカンで白石ぃ?」
『嬉しい訳無いやろ』
「照れんでええやん!」
『照れてないわ。ホンマ阿呆な事するん止め?』
「包帯捲くんが阿呆なら白石も阿呆っちゅう事やんな!」
『それとこれとは全くの別問題や!』
せやから俺は隠し通さなアカン。
今何を言われ様とも未来は俺の手の中にあるんやから。
嘘吐くのは苦手やし下手やけどな、もう慣れたんや。慣れてしもたら雑作ない。
『あー!!謙也が蔵パクってる!』
「パクる言うな!俺は右手やねん」
『名前、何や謙也が俺ん事好き過ぎるらしいわ…』
『嘘!幾ら謙也でも譲ってあげないし!』
「要らんわ!」
『まぁ阿呆な話はどうでもええけど何でまた急に包帯なんや?』
名前も参戦したところで本題に附く白石に、適当な事言うとかな納得せえへんのやろなぁ、と酸素を吸い込む。
「あんな、俺『謙也先輩昨日チャリで金網突っ込んだんスよね』」
「、」
『金網に突っ込んだて…どうせ前見てへんかったんやな』
『アハハ!さすが謙也!』
『見せたかったですわあの傑作は』
「…………」
『だけど謙也大丈夫?』
『せやで、テニス出来る?』
『そりゃ大丈夫ですわ、あんなんかすり傷ですよね謙也先輩?』
「あ、ああ、かすり傷やかすり傷!勿論大丈夫に決まっとるやろ!」
何で財前は庇ってくれたんやろうか…あの痣を見せたくないのを分かっとるっちゅうこと?
兎に角、財前の嘘に助けられた俺は笑うだけやってん。
□
そして今日も、何事も変わらず部活が終わる。
「アイツ等何処行ったんや?」
帰る前にもう一度、白石と名前に会わんと気済まへん俺はテニスコートで片付けをしてる1年の群れを掻き分けて2人を探すけど見当たらん。
部長の白石が先に帰る、なんて事は無いし、そうなると部室しか無いと思って半分開いたままのドアに手を掛けた。
「しらい――――っ!」
確かに、ドアの向こうには白石と名前が居った。
居ったけど………
『…ん、……』
『こっち見て、名前』
『……も、恥ずかしい…』
「……………」
そこには顔と顔を寄せ合ってお互いを確認する様な2人。
普段とは違う、男の顔した白石と女の顔した名前を見ると身体が動かへんなった。
「……………」
『あ、謙也先輩。帰らへんの?』
「、財前、」
『部室に忘れ物スか?それならさっさと…………、』
「……ええから、帰るで」
財前のお陰で漸く動いた身体を一歩進めて“何も見てへん”と呪文を繰り返した。見たくない、何も見てへん…
せやけど、どうであろうと仲良くしとるならそれでええ…
『鏡、見ます?』
「え?」
『凄い顔やで謙也先輩』
「…………」
『大概、阿呆スわ』
嘘は慣れた
そう思ってたはずやのにホンマは違くて。名前が好きで好きで、寂しかったんや。
「しゃーないやろ」
それでも名前が白石を好きで、白石も名前が好きなら、俺はそっちを応援するって決めたんやから。
『…そんな事する為に戻って来たんですか?』
「ざ、いぜん?」
『わざわざ未来から戻って来てまで部長ん事応援するん?』
「…き、気付いてたんか?」
『そら気付きますわ』
「……………」
『頑張り過ぎて阿呆や』
何かよお分からんけど、俺の気持ちも“俺”が今の“俺”やない事も誰かが知ってるという現実が嬉しい、て…それだけで報われた気がしたんや。
「財前、未来は変わるんやろか…」
『その為に来たんちゃうん?』
「…せやな」
『とっとと謙也先輩が言うたらええだけの話「アカン!!」』
『謙也、先輩?』
「そういう問題ちゃうねん…」
俺が告白するとかせんとか、そんな問題ちゃう。
名前が白石と上手くいって、あの相談も無かった事にして、あの事故を防ぐこと。それだけやねん…
『何があったんスか?』
「…………」
『言えへん様なこと?』
「…名前が、植物人間になってしもた」
『は…?』
「俺のせいやねん、俺がもっとアイツ等の事見てたら良かったんや…」
『……………』
変わらへんのに、何かが変わってる今に“俺”の存在意義を確かめた。
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