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 05.



こんなにも切ない“時”の中で


負を正に変えたかった





impression.5 love or friendship






俺が謙也に引け目を感じる様になったのは1年前、俺と名前が付き合うことになった日。



「名前、」

『……………』

「名前ちゃーん」

『、え?何、呼んだ?』



俺の声も届かへんくらいボーッとしてた彼女に苦笑して、視線の先に溜息もが溢れそうになる。



「ホンマ好きやな?」

『やや、す、好き、っていうか…』

「…………」

『…うん…好き』



彼女は俺やなくて別の男を見てた。
俺と同じに、真っ直ぐ真っ直ぐただ1人だけを。



「告白せえへんの?」

『うーん、そんな根性無いみたい』

「ハハ、謙也みたいな事言うんやな」

『何それ!所詮ヘタレ好きはヘタレってこと?』




名前が好きな男は
俺やなくて謙也やった。




「そういう事かもしれへんな」

『えー、素直に喜べないんだけど?』

「そんなヘタレな名前に提案があるんや」

『提案?』




ずっと謙也が羨ましかった。
いつも彼女に追い掛けて貰える謙也が、いつも彼女の頭の中に居る謙也が、羨ましくて仕方なかった。

もし俺が名前の特別になれたなら嬉しい時は一緒に笑う。哀しい時は抱き締めたる。楽しい時は冗談を言う。泣きたい時はずっと傍に居る。
絶対、幸せにする自信があった。




「告白する勇気が無いんなら、ちょっと賭けでもしてみいひん?」




せやから、卑怯な取引をした。








『謙也、謙也!話があるんだけど』

『白石も名前も、改まって何や?』

「いやな、俺等付き合う事になったんや」




“謙也がそこでちょっとでも動揺したり詰まったなら、名前を好きやっちゅうことや”

幾ら告白出来ひん言うたって女の子は夢を見る生き物で、少なからず何処かで1%の期待を持ってる。それは名前やって例外ちゃうねん。




『……っ、』

『……けん、や?』

「…………」

『っっ、良かったやん!!』

『…謙也、』

『いつかお前等が付き合う日が来るんちゃうかって思っててんけど、急にビックリするわ!せやけどホンマ良かったなぁ!』




僅かな間が名前を期待させて、そして続いた言葉に耽溺させる。
期待を大きく持ってしもた分、上手く続いた言葉は彼女にとって酷い弾痕になったと思う。




『おめでとうさん!!』

『―――っ、』

『え、名前、何泣いて、』

「謙也有難うな、感極まって泣いてしもたらしいわ」

『な、何やビックリさせんなっちゅうねん!早速惚気とか止めて欲しいわ』

「ハハッ、堪忍堪忍」







ごめんな名前。
可哀想な事してしもたやんな。

せやけどこれで良かったんや。




『…蔵、アタシ、フラれ、たのかな…』

「名前、」

『フラれたんだよね、だってあんな笑顔で“おめでとう”って…』

「……………」

『やだ、辛いよ蔵、アタシ謙也が…―――』

「俺の“ココ”は開いてる」

『くら…?』

「俺の胸は名前の為にあんねん」




あんな?




「嘘に嘘を重ねたらええ」

『うそを、かさねる……?』




ホンマは全部分かってたんや




「今は謙也が好きでも、直ぐ忘れさせたる」

『…………』




ああやって謙也が言う事も




「名前が好きや」




名前が謙也を好きな事も

謙也も名前が好きな事も



全部、全部分かってた




『アタシは、蔵に甘えてもいいの…?』

「男は好きな女の子に甘えられたい生き物や」




愛しているからこそ
どんな事をしてでも手に入れたかった


それを知っても
友情を選んだ謙也は俺を親友やと思ってくれますか?

謙也、こんな俺でごめん。





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