03.
今僕に出来るのは
君の傍に居ることだけ
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携帯アラームで目が覚めた朝。
春の様な暖かさから腕を出せばそこは北海道か、否北極点ばりの冷気が肌を刺激する。そんな事言うてみたって北極なんや行った事ないけど。
それよりもう朝か…ああ、嫌や嫌や布団から出たくない。あと30分寝かせて……
「……、寝とる場合ちゃうわ!」
寒い事なんやお構い無しに飛び起きて携帯に齧り付いた。
“1月13日火曜日”
今日も1月…良かった、まだ1月なんや。
「よっしゃ!学校行くで!!」
今も変わらず1ヶ月前に居る事に感謝して、俄然ヤル気になった俺は5分で支度を済ませて家を飛び出した。
早く会いたい
名前に、白石に、皆に。
何を考える訳でなく、ただ普通に毎日を暮らせることが幸せやって分かったから俺は“今”の時間を大事にしたいと思ってん。
「おはよーさん!」
『朝から元気スね謙也先輩』
「いっつも俺は元気や!」
『今日辺り遅刻するって踏んでたのに』
「こら名前!俺を遅刻常習犯みたく言うな」
『週1で寝坊するんやから変わらへんわ』
「白石も名前に乗っからんでええねん!」
部室に入ればいつもと同じ顔触れに会話。それだけで目蓋熱くなるとか感傷的過ぎや。
せやけど、俺には遣らなアカン事があんねん。
『謙也先輩、もう頭は大丈夫なんです?』
『あーそうだった!平気?』
昨日…
俺が溢した一言に皆は瞠若して。『何言うてるんですか?』っちゅう財前の言葉に白石と名前は大笑いしてた。
せや、俺が1ヶ月後の未来から来たなんやバレたらアカン。正直に話して信じて貰えるとも思わへんし、何よりあの現状を伝えられる訳が無い。
名前が植物状態で、それが白石と俺のせいやなんて……
「平気もクソも無いわ。昨日は名前のノーコンのせいであっちの世界に呼ばれてただけや!」
『アタシのせいだって言いたいの!?』
「普通に名前のせいやん」
『ちょっと聞いた?蔵ー、謙也が意地悪ーい』
『謙也がボケっとして反射神経悪かったせいやのに酷いなぁ』
「そない無理矢理理由こじつけんでもええやろ…」
どんだけ名前に甘い顔したら気済むんやアイツは。全部俺のせいにしてあり得へん!あり得へん、けど……
「バカップルは早よ結婚でもしとけ!」
『バカップルとは失礼しちゃう!』
『ホンマや…俺等はラヴラヴカップルやのにな』
『部長…それがバカップル言うんスよ』
この時間に居れる間、名前と白石を全力で応援するんや。
白石は甘い顔しとったらええ。名前も白石に甘えとったらええ。それで万々歳やろ?そうすればあの事故やって起きへんかったはずや。
きっと、その為に俺は戻って来たから。
『あーあ、謙也が要らん事言うとるから朝練の時間無くなったわ…』
「せやから俺のせいにすなって」
『朝練出来ひんかった分も放課後するとして皆教室行きやー』
白石の声に荷物を抱えて部室を出る部員達。一部で『今日の部活厳しそうやな』とか嫌ーな言葉が聞こえてきたけどとりあえず無視の方向で俺も部室を出た。
「あー…疲れた、」
『疲れたってまだ1日始まったばっかりですやん』
「俺にも色々あんねん」
両手を広げて伸びてると茶々入れてくるんは財前で。前にこんな会話もした気がするわ、って思うなり不意に腕を掴まれる。
「ざ、財前?なんや急に」
『…どないしたんこの痣』
「痣?」
『気付いてへんかったんスか?』
掴まれた右腕には、何本もの引っ掻き傷みたいな痣が薄らとあった。
朝制服に着替えた時には気付かへんかったのにいつの間に…?
「何処かでぶつけたんやろか」
『コレぶつけて出来るもんちゃいますよ』
「せやけど覚えてへんし…」
『とか言うて、雌猫に引っ掛かれたんちゃいますか?』
「猫?俺最近猫なんか触ってへんけど」
『…そっちの猫ちゃうわヘタレ先輩』
「は?」
全く持って“卑猥”な話やと気付かへん俺は、いつ傷なんや作ってしもたんやろって頭を悩ませてた。
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