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 02.



一生に幾つかしかない奇蹟だって


運命なのかもしれない






impression.2 Miracle fate






スローモーションに感じた一瞬一瞬がまるでコマ送りみたいで

ああ、名前もこうやったんやろか…なんて同一視すると、アイツの笑うが見えた気がした。


“謙也”


鍵を掛けたはずの心は彼女が俺を呼ぶ度に開いて
綴じたり開いたり、綴じたり開いたり無限のループを繰り返すだけ

ホンマは
今でもずっと、彼女が好きでした



「、っ……」



大袈裟かもしれへんけど、例えるなら雷鳴の様な酷く鈍い音。そんな軽自動車と衝突した音が聞こえたと同時に飛んだ俺の意識。

ただ、最後に思い出せたのが名前で善かったなぁって思えたんや。






  □






「………」



不意に飛び込んで来た世界は澄み切ったコバルトブルー。
それから鳥の鳴き声とか、騒めく声や何やら聞こえる。

あっちの世界も生きてる時と何ら代わり映えせえへん地味なもんやな…まぁ昔話に出て来る様な“地獄”とか“閻魔様”とかやないだけ善しとするべきなんか…


自分が逝ってしもたっちゅうのに至って平静を保てれる事に感動しそうやった。俺やっぱりヘタレちゃうって事ちゃう?
そしてゆっくりと身体を起こそうと力を入れると、



『けーんーやっ!!』

「だっ!!」

『やっと眼覚めた?』

「――……」



頭を小突かれて軽い痛みが走ったたと思えば、視界には名前。

嘘や……
名前が居る訳ない。
幻覚?これは幻なんちゃう?



『何ボケッとしてんの?』



でも、確かに名前は俺の頭に触れて喋ってる。



「ホンマに…名前、なん…?」

『アタシじゃなかったら誰なのよ』

「…………」



ホンマにホンマに名前や…
俺が好きやったままの名前。

会えて嬉しい、
せやけど“此処”に居るって事は名前もあれから……



『ねぇねぇ光、謙也が可笑しいよー?』

『謙也先輩が可笑しいなんや今に始まった事ちゃいますやん』

『あはは!確かに』

「…財、前?」

『何スか』

「財前まで何でや…?」

『謙也先輩、言うとる意味分かりませんわ…よっぽど打ち所悪かったんやな』



この、人を蔑んだみたいな目付き、言い種、財前以外居てへん。
何で、何で、その疑問ばっかり浮かぶけど…
せやったらもしかして――



『謙也もう平気なん?』



期待通り映るのは“完璧”を纏った白石の笑う顔。
最後に見た白石とは全く違う、本当の白石。



「し、白石…白石や!!」

『うわ、何や謙也…俺は男色無いねんで』



思わず飛び付いた俺やけど俺やって男が好きなわけちゃうねん阿呆。
感銘してんねん…“今”お前等が居ることに。人の気も知らんと勝手なもんや…それでも何でもええ、昔みたいに過ごせるならそれで。



『光ー、蔵が浮気してる!慰めて?』

『ええけど身体でしか慰めれへんで?』

『名前、浮気ちゃうやろ?財前も何言うとんや?』

『冗談ですわ』

『大体謙也が頭なんかぶつけたせいで、』

「、頭?」



名前には小突かれたけど頭ぶつけたっちゅうより俺は…



「俺は交通事故やで…?」

『…………』



名前と同じく軽自動車に当たって…



『ククッ、謙也先輩最高やわ』

「え、」

『謙ちゃん本当に大丈夫?』

「な、何が、」



俺の言葉に沈黙した途端笑いが巻き起こって、また俺の脳内はクエスチョンマークと一緒に困惑する。
そんな俺に突き付けた白石の一言は更に理解出来る領域を越えていた。



『此処はテニスコートやで?どうやって交通事故になんねん』

「テニスコート…?」

『今日は校内のコートが使えへんから部活休みになったのに、それでも施設で打ち合いする言うたん謙也やろ?』

「…………」



確か1ヶ月くらい前、そういう事があった。

推薦組で大学も決まってた俺等が相も変わらず部活に参加してた時、校内の点検か何かでテニスコートを含めて生徒が学校立ち入り禁止になった日。
近所にある無料解放してたテニスコートで打ち合いしてた。

その時、名前のノーコンボールが俺の頭に的中して一瞬空が見えた。


まさか“今”は“あの日”っちゅう事…?
今まで俺が見てきたものは全部夢やったんか?白石の別れ話も交通事故も全部…?



『とりあえず暫く休憩しよか?謙也もこんなやし』

『じゃあアタシドリンク持って来る』

『ん、頼むわ』



あんな鮮明に毎日を過ごした記憶があるのに夢やったりする?

俺の記憶ではこの後名前は、



『ぎゃっ!!』



俺のバッグに脚を絡ませて転ぶ。



『名前!大丈夫か?』



それからドリンクも全部おじゃんになって、財前に呆れられながらも白石に甘い顔されるんや。



『名前先輩、どうやったらそこで転けるんですか』

『謙也がこんな所にバッグ置くからいけないんだもん!!』

『せやな、謙也が悪いな?名前に怪我が無くて良かったわ』

「……………」



その景色が俺の脳にある記憶とリンクすることで“夢幻”と思うには無理があった。

一語一句、何の狂いもなく正本になったかの様な現状にひとつ浮かんだこと。



『しゃーないんでジュースでも買いに行きましょ』

「俺は…戻ったんや……」

『謙也先輩?』

「過去に…」

『……………』



それは偶然の中の奇蹟なのか
必然的な運命だったのか

そんな細かい事は分からへんけど、また逢えた笑顔に幸せを噛み締めた。





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