１４.
君が好きな理由
あの人と居るからなんだ
impression.14 reason
俺の言葉で憂愁な顔を浮かべた名前に、軽く頭を小突いてやる。
『、』
「名前は俺ん事なんや気にせんと白石ん事だけ考えとき？暑苦しいけどバカップルが見れへんなったら調子狂うわ」
『あ、暑苦しいは余計なんですけど』
「ほな鬱陶しい？」
『謙ちゃんのくせにムカつくー！』
「な、なんやねん！その言われ様！」
理不尽な返答に怪訝な顔を見せるけど、いつもの“らしさ”が戻って安堵する。
やっぱり俺は名前の事が好きや。
好きやねんけど、今は白石の事が好きな名前が好きや。そりゃ、ら、ラブシーンとか見た事無かったし目の当たりにした時はビックリして少し切なかったけど…それでも名前は白石と一緒に居って欲しい。
『だって謙ちゃんが、…あ、蔵からだ』
「白石？何て？」
不意に部室に響いたメロディーは名前の携帯で、それを聞いただけで相手を分別出来る辺り白石だけに設定した特別な音楽なんやろう。
学校出るまでは音切っとけや、とも思たけど、それ以上に浮かぶのは
“こんなに仲ええのに何でなん？”
やっぱり事故の日の事やった。
『…………』
「、名前？」
『…………』
そんな俺を余所に、携帯を見たまま固まってるんは名前で。少し口を開けたまま親指も動かさへん。
「どないしたん？白石、何やって？」
『……、帰るって、』
「え？」
『急用出来たから帰るって…』
「…………」
白石が名前を置いて先に帰る？
白石に限ってそんなんあり得へん…
何で？急用て何や？
疑問符ばっかり並べてしまうけど、明らかに同心で戸惑ってる名前を見ると否定せなあかんって声が出た。
「心配する事無いて！」
『、でも…』
「何かあって、名前にちゃんと説明する間も無いくらい急いでるだけやろ」
『何かって？』
「それは分からへんけど…せやけど簡単でも連絡くれたんやから」
『…うん』
「何を心配して疑っとんか知らんけど、名前が白石ん事信じてあげなあかんやろ？」
それは自分にも言い聞かせた言葉やってん。
『そ、だよね』
「せや、寧ろ白石が焦るとこなんや貴重やねんから見たかったわ」
『、アハハ！蔵が聞いてたら間違いなく怒ってたね』
「べ、別に怖ないし！」
『嘘ばっかり』
さっきのさっきまで普通に過ごしてたんやから大丈夫、白石は大丈夫、
それだけを信じて名前と雨の中を歩いた。
□
翌日、１月２４日土曜日。
学校は休みでも午前中から部活がある為に学校へ向かう。
よっぽど昨日は白石にメールか電話を入れようかと悩んだ。あれからちゃんと名前と話したんか、変な事になってないんか気になってしもて…
せやけど今日２人を見れば分かる事やし、あんまり関与しても未来から来た事がバレるんちゃうかって思うと、メールの送信ボタンも電話の発信ボタンも押せへんかった。
「……大丈夫や、心配無い」
いつもと同じ学校への道程は厭な緊張でドキドキした。
昨日から何度も繰り返す“大丈夫”の言葉に縋って一歩一歩学校へ足を進めると、見えてきたのは白石らしき男と名前らしき女の２人組。
ああ、今日も一緒に学校来てるって事は余計な心配は要らんかったんやなって、極度の安心感から笑いが込み上げたんや。
「ハハッ、空回りな心配っちゅうやつ？」
溢れてくる笑いを十分に出しきって、漸く落ち着かせたら２人目がけて一直線。
『しら「別れよ」』
浮かれまくりな俺のおはようの言葉は白石の声で無いものになった。
白石は何て言うたん？
(20090406)
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