13.
優しい未来が手を広げてるなら
どんなモノなのか教えて下さい
impression.13 contradict
引退を迎えても相変わらず部活には毎日参加して引退前と変わらへん日々を過ごしてきた。
せやけどもう卒業まで残り僅か、卒業してしもたら時々顔を出せても今まで通りにはいかへんのやろなって…そんな事を考えると寂しさを感じずにはおれへんくて、1日1冊ずつ過去の部誌やら試合記録が書かれたノートを持ち帰っては読み直してたんや。
『ちょっとトイレ行ってくるから先に部室行ってて?』
「分かった、早よ来てな?」
『うん!』
教室を抜けた後、名前とも別れて部室に向かった俺は過去のノートを引っ張り出す為に部員達のロッカーの裏側にある畳二畳分の狭いスペースで段ボールを漁っていた。
普段誰も寄り付かへんソコは埃が溜まってて、部室内同じ空間やと言うのに違う部屋に居る感覚やった。
『蔵ー、お待たせ…あれ、居ないの?』
ガチャ、とドアの開く音がして名前に返事を返そうと息を吸ったけど、入り口から死角であるこのスペースに俺が居るって気付いて無い様子の名前を驚かそうかなぁなんて悪戯心が芽生えて。
音を立てへん様に昨日読んだ部誌の続きを探ってた時、
『白石ー、名前ー、』
『あ、謙也』
帰った筈の謙也の声に身体が跳ねて、今すぐ飛び出ようと思たのに足が固まってしもて動かへんかった。
『、名前1人なん?白石は?』
『オサムちゃんとこかなぁ?分かんない』
『わ、分からんて、』
『アタシがトイレ寄るから先行っててって言ったら居ないから…直ぐに来るでしょ』
何て事無い会話やのに
寧ろ俺の話題で謙也は心配してくれてるのに
『謙也は?帰るんじゃなかったの?』
『明日提出の課題あるやろ、ソレ取りに来たんや』
『まだやってないのー?あれ2週間前に出されたじゃん』
『スピードスターは何かと多忙ねん』
『なーにソレ。まぁいいや、蔵が来るまで話でもしようよ?』
『ん、ええで』
せやのに沸き上がる嫉妬心は尋常やなくて俺の顔を歪ませる。
相手が男なら誰でも嫉妬するんやろうけど、相手が謙也やからこそ醜い情感が溢れて溢れて仕方ない。
『名前は白石が好きやんな?』
『急に何なのその質問』
『いや、ホンマ馬鹿が付くくらい仲ええし』
聞きたくないのに、
聞いたらアカンのに、
名前と謙也が何を喋るんか気になって、
謙也の質問に名前が何て答えるんか気になって。
『そうだよ、馬鹿が付くくらい仲良しだもん。好きに決まってる』
もしかしたら名前は『謙也が好きや』って否定するんかと思って…せやから安堵したけど…
『それならええねん』
『……謙也は居ないの?』
『俺?……うん、お、居る、かな…』
『え、そうなの?』
『や、もう諦めたんやけどな』
安堵したと言えど否定されると思たんは名前を信用してへんっちゅう裏切り。
そして謙也の『諦めた』っちゅう言葉さえも俺がアイツを裏切ったから。自欲を貫く為に気付かへんフリして謙也を踏み躙った。
『諦めなきゃ、駄目なの…?』
『名前と白石みたいにはなれへんから』
『そうなんだ…』
『せやからお前等は俺の分も馬鹿ップルで居ってや?』
『…うん分かった』
もう、それ以上は聞きたくなかった。否、聞いてられへんかった。
裏側にある全く使用されてない錆付いたドアを開けて部室を後にした俺は、携帯を取り出して「急用出来てしもて帰ったんや、堪忍」と名前にメールを入れた。
「……ハァ、情けない、なぁ…」
財前に責任取れって言われたのに
俺も自責した上で覚悟決めたつもりやったのに
いざ謙也の想いを目の前にすると逃げたくなって、ホンマなら“邪魔”は俺の方やって、2人は今でも自分の想いを押し殺しても想い合っとんちゃうかって
せやのに頭痛がする程に嫉妬して渡したくないて、触れさせたくないて、勝手に喋らんでて…ドロドロしたモノも絶え間なく溢れる。
「名前は、謙也の気持ち知ったらどないするん…?」
どないしたい?
謙也と一緒になりたい?
名前の携帯にあった“秘密”を知った日の潮時やっちゅう感情を改めて浮かべた雨の日。
雨は俺に味方してくれる訳でもなく冷たく俺を濡らした。
(20090311)
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