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 12.



急カーブなんか必要なかった


真っ直ぐ、進んでいた筈なのに





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翌朝も雨は深々と降り続いてた。



『朝練が無い日は遅刻せえへんのやな?』

「朝からキツイわ白石…」

『普通やで?』

「普通ちゃうわ…」



目覚ましに頼る事無く起きた朝は生憎の雨続きで朝練は休み。そんな中で白石はお馴染みと言える皮肉を浮かべて俺の反応を楽しんでた。

昨日よりは幾分らしく見える笑声に少しだけ安堵したのは俺で。



「白石、今日の放課後はどないするん?」

『んー、止んだとしてもコートが使えへんやろうし休みなんちゃう?オサムちゃん次第やけどな』

「せやなぁ、これだけ降ったらドロッドロの沼地やねんもん」

『雨天時試合の対策として敢えて練習試合するんも有りかもしれへんけど?謙也は』

「俺だけかい!」



口元に手を翳して喉で笑う白石は“普通”に笑ってた。



『ちょっとちょっとー!アタシだけ除け者にして盛り上がってるなんて許せないんですけどー!』

「名前遅かったやん」

『名前ちゃんは朝からトイレ行ってたんや、な?』

『何かソレ下品に聞こえるから止めてよ蔵…』

「あー、あれか!人間なら生理現象やねんから仕方、な゛っ!?」

『違うもん!お化粧しに行ってただけだもん!謙也と一緒にしないでよ!』

「はぁ、すんませんでしたぁ…」



不条理に教科書で頭を叩かれて口を尖らせてしまうけど、白石も名前も揃って自然体やからそれだけで良かった。

財前の言う通り、昨日の俺は少し過剰やったかもしれへん。行き過ぎた心配は返って周りを混乱されるだけやから気を付けなアカンけど…それでもやっぱり“良かった”の一言やねん。



『……………』

「、白石?」

『、あ…や、謙也はいつまで包帯捲いとく気なんや?まだ怪我治らへんの?』

「あーコレは……そ、そんな1日2日で治ったら俺サイボーグみたいやん!」

『そっか、謙也怪我してたんだよね…まだ痛い?』

「大丈夫やで」



痛みなんか無い…堪忍な、嘘を吐くのは許し難い事やけどこれでええねん。せやけど白石は特に勘がええから気を付けなアカン。

包帯の下は残り4本の条痕、残り4日、俺は白石と名前を守るんや。





  □





「結局止まへんかったなぁ」



放課後のチャイムが校内に響いて、いつもなら即刻部室に向かうとこやけど窓に映る雨模様に部活は休みとなった。



『謙也、雨やねんから滑って転んだとかもっと怪我増やしたらアカンで?』

「小さい子ちゃうねんから分かっとるわ」

『アハハ、謙也はそれくらい言って貰わなきゃ駄目じゃん?』

「何でやねん!」



気を付けて帰り、その一言でええのに尾鰭、腹鰭、背鰭も付けてくるもんやからこっちも堪らんわ。
『俺等は部室寄ってから帰るわ』と手を挙げる白石と手を振る名前に舌を見せてちょっとした悪態を付いて、今日はアイツ等も大丈夫そうやし、俺も家に帰ろうと荷物を抱えて教室を出た。



「今から帰ってゲームして、それから明日課題のプリントやってー…あ、」



ぶつぶつ独り言を発しながら廊下を歩くと課題プリントが手元に無い事を思い出して。
さっき別れたばっかりの2人を追い掛ける様にプリントがある部室へ向かった。

何で家やなくて部室のロッカーに突っ込んだんや、部活が無いのに部室に寄らなアカンとか面倒臭いっちゅうねん…



「白石ー、名前ー、」



既に部室までの道程に2人は居てへんくて、此処に居るものやと決定付けてた俺はドアを開けると同時に名前を呼んだ。



『あ、謙也』

「、名前1人なん?白石は?」

『オサムちゃんとこかなぁ?分かんない』

「わ、分からんて、」



とぼけた言い方をする名前を眼にして「何で」とか「もしかして」とか、妙に胸が騒ぎ始める。



『アタシがトイレ寄るから先行っててって言ったら居ないから…直ぐに来るでしょ』

「なんやそういう事か…っちゅうかまたトイレなん?」

『うるっっさい!女の子には色々あるんだってば!』



今の、ほんの一瞬の間に喧嘩でもしたんやろかって思た俺は今朝同様、安堵の溜息を溢して口角を緩ませた。人騒がせなカップルや…



『謙也は?帰るんじゃなかったの?』

「明日提出の課題あるやろ、ソレ取りに来たんや」

『まだやってないのー?あれ2週間前に出されたじゃん』

「スピードスターは何かと多忙ねん」

『なーにソレ。まぁいいや、蔵が来るまで話でもしようよ?』

「ん、ええで」



俺はこの時、何で直ぐに帰らへんかったんやろって…
何で白石の気持ちも考えんと名前と話してしもたんやろって…

後悔するとは思わへんかった。
白石を待つ迄、ただの暇潰しに付き合うてやりたかっただけやったから。





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