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 11.



雨でも晴れでも


君は僕に笑顔をくれる





impression.11 Sound of raindrops





聞こえてくるのは水を弾く足音とそこら中に落ちる雨音。
左手には1人用にしては少し大きめの白い傘、右腕には名前が巻き付いて。それだけで幸せなはずやのに、スッキリせえへん空模様と比例した心は何かを掴もうと手を伸ばしては引っ込んで、触れたら終わってしまう領域に踏み込むか否か惑わされるばっかりやった。



『くーらっ』

「ん?」

『今日、疲れてる?』

「何でそう思うん?」

『こーんな顔してるから』



絡めた腕を解いて自分の眼を横に引っ張る名前に思わず失笑する。
せっかくの可愛い顔が台無しやで?



「俺、そない不細工やった?」

『あー!不細工ってハッキリ言った!』

「ちゃうちゃう、名前はいつも可愛えよ?」

『もういいです、傷付きました』

「ハハッ、名前が拗ねたら俺も傷付くんやけど」

『何で?』

「こっち見てくれな寂しいやろ?」



せや、“こっち”を見て欲しいんや。
謙也やなくて俺だけを。



『うそ』

「名前が不細工とか思う筈無いやん」

『違う』

「違わん」

『そうじゃなくて、蔵がアタシと居ても楽しそうじゃない』

「…………」

『無理、してない?』

「…名前?」

『、』

「俺ん事好き?」



“らしくない”続きの俺に瞬きを止めて、眼を見開く彼女に真っ直ぐ視線を向けて。



『好き、じゃなきゃ今も今までも一緒に居ないよ』

「そ、か」



些細な変化に気付いてくれる名前が愛しい。愛しい、せやから俺の気持ちを知られたらアカン。

もし、俺が「今も謙也が好きなんちゃう?」そんな事を聞いてしもたらホンマに終わりやと思う。
そこは触れたくても立ち入り禁止区域で、名前を手放したくないなら彼女を愛する事だけが俺に出来ること。財前に言われた通り、名前を幸せにする事が俺に定められた道筋なんや。



『蔵は?』

「え?」

『蔵は、アタシの事本当に好き?』



急に立ち止まった彼女は傘から外れて雨滴を直に浴びる。慌てて傘を傾けると冷たい滴が俺にも落ちて、それと同時に冷たくなった指先が俺の手に重なった。



『好き?』

「……ん。好き」

『どれくらい?』

「んー、いっぱい?」

『それじゃ分かんない』

「ほな、“世界中を敵に回しても”でどうや?」

『ップ、あはは!何の台詞なのー』

「言わせといて笑うんはアカンで名前ちゃーん?」



今は名前の指を暖めてあげたくて、それ以上の余計な思いは要らん。

せやけど、謙也を裏切っても何しても、誰を敵に回しても俺は彼女を愛するって思った。



『っていうか濡れちゃったね』

「名前が急に止まったからやろ」

『もう!アタシのせいにして!』

「違うん?」

『……違わないけど』

「ん、ちゃんと認めて偉いな?ほな俺ん家寄って制服と頭乾かそか?」

『それだけで済まない気がするんですけどー』

「そら可愛い彼女が目の前に居ったらどうか分からへんわ。嫌なら止めてもええんやで?」

『止める訳ないじゃん!』



もういっそのこと濡れて帰る、なんて勝手に傘を綴じる彼女は冴えん雨空をも晴れた空に変えてしまう力が有りそうな気がした。
きっと、俺に光を照らすのは彼女以外誰でも無くて綻ぶけど、風邪引いたらどないするんや、とか半面暢気に考え事が出来る事も幸せ過ぎるんやなぁって。
水溜まりを跳ねて笑った。





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