10.
天気は雨
僕は燦々とした晴れ模様
impression.10 clear,cheer up
『皆気付けて帰りや』
『お疲れ様でした!』
普段部活が終わるより1時間も早く白石が片付けを始めろって言うてから、空からポツポツと滴が落ち始めた。
「あー、雨が降ったら益々寒なるのに…」
『明日は晴れるとええけどな』
やっぱり何処か浮かん顔をする白石は窓から外を眺めて憂愁を背負ってた。
「し、白石、」
『ん?』
「や、何でもないわ…」
ヘタレてるとかそんなんやなくて、俺を映した白石の顔は“踏み込むな”って言いたそうに拒絶の色を出してた。
白石の事やから俺が「何かあったんか」って聞きたかった事くらいお見通しなんやと思う。
『言いたい事は言わなアカンで?』
「別に、大した事ちゃうねん…」
言わせてくれへんのは白石やろ?
心配、せんで大丈夫やって信じてええねんな?
「俺、帰るわ」
『はいお疲れさん。謙也、風邪引かんようにな』
「要らん心配やっちゅうねん」
ドアノブに手を掛けると後ろでは『俺等も帰るで』っちゅう白石の声と、名前の浮かれた足音が聞こえて。
大丈夫、俺が心配する必要なんか無いって。白石は名前にさえ優しかったらそれでええって…瞼を綴じて外へ一歩踏み出した。
「――、」
『お疲れス』
「帰ったんちゃうん?」
時間の割に薄暗く、ザーザーと降りしきる雨の中に居ったんは財前。
数分前に出て行ったはずやのにまだ居てたん?
『どうせ傘持ってへんのやろ?』
「あ、」
『特別サービス。送ったりますわ』
「…………」
傘を傾けて屋根を作ってくれる財前に思わず言葉を無くしてしもて。
財前が俺を送ってくれるとか、明日も大雨になるんちゃう?そう思うと顔が緩んでしもたんや。
『言うときますけどタダちゃいますよ』
「か、金取る気か!」
『汁粉で我慢したりますわー』
「我慢て…」
『××屋のゼンザイ(00)にして欲しいん?』
「し、しし汁粉で許して下さい」
『っちゅうか謙也先輩て…』
「なんや」
『ホンマ、阿呆スわ』
「改めて言う事ちゃうわ!喧嘩売っとんか!」
男2人の帰り道。
それはむさ苦しくて暑苦しくて気色悪いこと極まりないけど。
せやけど悪くないなって思うのは財前が実は人情深いせいかもしれやん。
白石については気になるけど、とりあえず今日も何事も無く終わって痣がひとつ消えていく。
俺が此処に居る事実から少しずつ色を変えていく未来に、明日もどうか名前が幸せでありますようにと願って灯りを消した。
白石、
何を思っても、名前には白石しか居てへんのや。それだけは忘れんで。
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