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 09.



持ち上げた瞼は


灰色を映した





impression.9 gray zone





『なぁ財前?』

「何スか」

『今日の白石、何や可笑しない?』



名前先輩と喋る部長を見てあからさまに憂愁の顔を浮かべるけど、昨日は自分が凹んでた癖にでかい人やなぁって。

泊まりや泊まり、言うてはしゃぐ名前先輩に『冬やのにバカップルは暑苦しい』言いながら容易に想像出来る夜を思って苦笑してたんは謙也先輩やろ?他人の心配ばっかりしてたら自分が保ちませんよって。



「…別に普通やと思うけど」

『せやろか…』

「じゃあ逆に何処が可笑しいんです?」

『、そう言われたら、分からへんけど…』



せやから、謙也先輩。



「気にし過ぎですわ」



たまには休んで俺に押し付けたらええと思います。
俺やって“哀しい”より“楽しい”未来を選びたいんで。







「名前先輩、1年が転けたって」

『え!?嘘、救急箱ー!』

「あっちで座ってるんで頼んますわー」

『了解!』



バタバタと走って行く名前先輩を横目に確認して部長へ移すと小さく溜息を溢してた。

謙也先輩の言う通り、今日の部長は可笑しい。普段通りを装うけど笑ってへんのや。



「さすが部長」

『、』

「らしくないで」

『……名前にも言われたわ、』



あくまで冷静を繕うとする部長に毀誉褒貶すると、やっぱり厭味は伝わったらしく『減らず口や』と空笑いで頭を小突かれた。



「何があった、なんや聞かへんけど」

『…………』

「謙也先輩が心配してますよ」

『謙也が、』

「なぁ部長、後悔するんは勝手やけど責任持たなアカンのちゃいます?」



名前先輩が何で部長を選んだのかは知らへんけど、名前先輩も謙也先輩の気持ちを無定型にしたのはアンタなんやから。
現に今名前先輩は部長に惚れとる。その責任は取らなアカン。



『…せやな』

「これでも一応は応援してるんで」

『財前が?』

「心強すぎて困るて?」

『ハハッ、右近の橘っちゅうやつ?』



部長やったら好きな女を大事にする事くらい訳無いし有り余る包容力やってある。もしかしたら謙也先輩と一緒に居るより幸せになれるかもしれへん。

せやけど俺は、



「…そんな綺麗なもんちゃいますわ」



もしも今名前先輩の隣が謙也先輩やったら、心配な未来は無かったんちゃうかなって。

片隅に巡らせてしまう俺は橘みたいに綺麗では居られへんと思います。



『財前、』

「何です?」

『謙也は何て言うてたん?』

「…部長が変な顔やて」

『アイツには言われたないな』

「間違いないですわ」



暑苦しい謙也先輩はともかく、部長も所詮人間っちゅう事や。
“完璧”なんや世の中存在するはずが無い。生きてる限り喜怒哀楽の感情と共存せなアカンのやから。

せやけど部長、アンタは自分の為にもあの人の為にも笑う事だけを考えてて下さい。“哀しい”とかそんなもんはドブにでも棄てたらええ。



『…一雨来そうやし、今日は早めに切り上げよか』

「…………」



見上げた空は不穏な灰色の雲に覆われて、今更過ぎる雨を予報してた。





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