monochrome mood | ナノ


 


 04.



踏み出せなくて


ただ逃げていた





monochrome mood
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初めて触れたあの人の肌は思った以上に柔らかく滑らかで自分と同じモノで出来とるとは信じられへんと思った。



「名前先輩、着替えへんの?」

『うーん…』



カッターシャツを羽織る後ろで布団を被ったままベッドから動こうとせん先輩の前髪を避けて額に口唇を合わせる。

必然的に眼を瞑った名前先輩が厭に可愛い気がしてフッと息が漏れた。



『何で笑うのー?』

「何でも無いスわ」

『…本当に?』

「ホンマ。っちゅうか今日は“本当に?”が多いわ、そない心配?」

『…………』



図星を付かれて罰が悪そうに頭まで布団に潜り込むけど。

名前先輩、アンタの好きな人は俺やなくてユウジ先輩やろ?せやのにそんな顔したらアカンのちゃいます?



『…ひかる?』

「なんスかー」

『アタシ達、別々に出た方がいいんじゃないの…?』



ほら、彼女のことあるし…少しだけ顔を出して憂苦な視線を向けられて。



「そんな事、気にする必要ないスわ」

『…そう、かな』

「それより、」



さっきから実は掴まれたカッターシャツ。その手を引っ張って引き寄せれば、



「延長、します?」



途端顰めた顔は緩和されてクシャっと笑うもんやから、もっともっとメチャクチャにしたくなった。

普段誰にも見せへん顔を俺に見せて下さい。それが優越感。








『んっ、んん、ひか、る』

「やっぱり、満足してへんかったんや?」

『ちが、そうじゃない…あっ、』



俺の動きに合わせて声を上げる先輩に自然と口角は上がって、快楽が脳と身体を支配する。

求めて求められてまた求めて。
無限の連鎖で繋がれた身体は愛しさまで込み上げる。

名前
名前を呼ぼうとした瞬間、再び音を出す携帯に「しまった」と視線を向けると意外な人物からの着信に俺の“悪戯心”に火が点いた。



『電源、切って、ないじゃん…』

「さっきまで帰る言う話やったんやからしゃーないやろ」

『あ、や、…大丈夫?彼女…?』



繋がったままで携帯を持つと眼を真ん丸にさせた名前先輩。



『うそ、出るの?!だれ…?』

「ユウジ先輩」

『!!』

「もしもし?」

(やだ、ひかる、止めてよ…)



小声で荒い吐息を混ぜながら訴えられたって、逆効果て分かってます?



《あ、財前?》

「珍しいスね」

《ちょお、聞きたい事あってん》

「何です?」

(ひかる、お願い止めて、止め、んんっ!)



ユウジ先輩の声を聞きながら名前先輩の口唇に噛み付いて



《あー、名前の事やねんけど…》

(そない声出してたらユウジ先輩に聞こえますよ?)

(い、いじ、わる…!)

《今日の名前、何や変やなかったか?》



挑発的に言うたら益々俺を求めて、縋り付いてくる。



「変て?」

《や、そう返されたら何て言うたらええか分からへんけど》

「っちゅうか今一緒ですわ」

『、っ!?』

《は、ホンマに?》

「“買い食い”に付き合わされて今は腹痛い言うて蹲ってますけど代わりますわ」

(ちょっと、ひかる!?)



焦る名前先輩の頭を一撫でして携帯を耳に当てたる。
それでも俺は止めへんで?バレたくないならちゃんと喋らなアカンで先輩。



『も、しもし…』

《食い過ぎで腹痛いて阿呆やろ》

『わ、悪かったわね…(ん、あ、)』

《なんや、ホンマしんどそうやん》

『…うん、本気でお腹、痛いから…だからもう、電話、切るよ…?』

(もうええん?)

(ひかるの、ばか…や、だ、)

《分かった、また明日な》

『う、ん、また、明日』

《明日までに腹治せや阿呆》

『分かった、から…じゃあね』



結局特別な話も無く電源ボタンを押す名前先輩は既に“降参”の顔で俺を映す。



「バレへんかった?」

『も、信じらんない…』

「強い刺激も必要なんちゃうかって思ったんですわ」

『ひかるのばか…』



身体も中身も昨日より確実に近付いた事を確認して

せやけどやっぱりユウジ先輩を想う名前先輩が居るのも、ユウジ先輩が名前先輩を想うのも分かって

それを全部踏まえた上で、俺はこの人を縛り付ける術だけを巡らせてた今日。俺の心は灰色よりももっと淀んでるんやと思う。





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