03.
あれから新しい明日へ
種を植えて芽を出した
華は咲かなくてもそれでいい
monochrome mood
mood.3 vermilion
(今日予定あるんです?)
授業中に光から届いたメールに舞い上がって“部活休みなんだから暇だって分かってるでしょ”そんな返信をした事が全ての始まりだったのかもしれない。
(そんなん分からへんわ。今日、ええ事しません?)
大体、想像は出来た。
光が言う“ええ事”を指す意味も、アタシも光もお互いの利害一致で一緒に過ごそうとしてたことも…分かってて頷いた。
光が彼女とどういう関係で居るのかは知らないけど、アタシはユウ君への寂しさを紛らわせれるならそれで良かったの。
『名前、授業中に何メールしとんや』
「ユウ君には関係無いでしょー」
『…せやな、どうでもええわ』
「…………」
ほら、期待させといて落とすのは得意分野じゃん…気になるフリして気になんてならない、それがアタシの知ってるユウ君。
ユウ君がアタシを“好きになりたくない”ならアタシも好きなの“止める”。それ以上それ以下も無かったら友達として隣に居られるでしょう?
離れるなんて嫌だから、アタシはそっちに走るんだ。
□
「ん、ひか、る…」
『名前先輩やらしい顔してやらしい声出してどないしたんです?』
「だっ、て……」
邪魔するモノは無い空間で2人きり、知らない場所で初めて触れる体温が心地好くて既に虜になっている自分が居た。
『ユウジ先輩やなくても感じるんや?』
「やだ、そんな事言わないで…」
ユウ君じゃなくて別の人をあっさり受け入れる身体は端から見たら淫乱で醜いモノでしかないんだろうけど、
光が居て
光の腕の中で
光の温もりを直に感じて
光とひとつに繋がって
『名前』
「や、や、……っ、」
名前を呼ばれればそれだけで“愛されてる”錯覚になるの。
女の子は愛されたい生き物だから、愛されないより愛をくれる方へ流れたい。
『名前先輩かーわーえースわ』
「…感情籠もってないんですが光君?」
『ククッ、ホンマホンマ』
「どうだか」
情事が済んだ部屋で着替えることも無く気だるさと余韻に浸る中、上半身をはだけさせた光は肩を揺らせて笑ってて。
この身体に抱かれたんだなって思うと今更照れちゃう。
痩せてるのに筋肉があって、そんなに身長が高い訳でもないのに背中は大きくて肩が広くて手だって男の手……って、こんな事考えてちゃ盛り過ぎた変態じゃん!
『顔赤いで?』
「き、気のせいでしょ!」
『何、足りひんかった?』
「!」
耳を甘噛みして舌を這わされると、終わった後でも身体は反応する。そんなアタシを面白可笑しそうに見てくる光に反抗したいのに出来なくて、突如鳴り響く携帯の着信音に違う意味で身体が跳ねた。
『すんません、俺の携帯ですわ』
「う、ん…」
夢が醒めたみたく真っ黒な現実に引き戻された気がして慄然する。
「…彼女?」
『…気になる?』
「あ、や、別に…ちょっと罪悪感…」
嘘。そんなの嘘。
罪悪感なんかじゃない。
今まで傍に居てくれた光が居なくなっちゃいそうな気がして、切ないだけ。彼女なんて居なければ良かったのに…
『名前先輩』
「、」
『嫉妬する女の顔、してますわ』
「……………」
『今俺は名前先輩と居るんやで?』
「でも…」
『先輩が望むんなら、明日も明後日も一緒に居りますわ』
「本当に?」
『ホンマ』
「うん…ありがと光…」
『携帯も次から切っときますから』
やっぱりいつもアタシを支えてくれるのは光で、寂しい時も辛い時も一緒に居てくれるのは光なんだって…光の背中に甘えながら思ったのはソレ。利用するされる、それだけの関係だったはずなのに。
きっと、ユウ君にも誰にも言えない秘密を作った今日の記念日からアタシは光に惹かれてたんだと思う。赤には染まりきれない中途半端な朱色程度に。
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