monochrome mood | ナノ


 


 13.



いつまでも変わらない毎日なんて


ピーターパンの世界でもあり得ないと思う





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お疲れ様でした

テニスコートに響いた声を合図に散らばるテニス部の皆。
いつもと変わらない風景、いつもと変わらない部活時間、だけど変わったものも2つあった。



『帰るで』

「ユウ君、」

『ボケッと阿呆な顔してつっ立ってんな』



ひとつは小春ちゃんにべったりだったユウ君がアタシを待ってること。



「小春ちゃんはいいの?アタシと一緒に帰りたいの?」

『うっさいわ!勘違いすな、小春が名前と帰れって言うからや』

「ふーん?」



照れ隠しみたいに顔を背けるユウ君に、口は悪いけど幸せを感じて口角は上がりっぱなし。
『ええから行くで』なんて手を引っ張られたらユウ君と付き合いだしたんだなって、やっと実感出来た。



「ユウ君、ユウ君、」

『なんやねん』

「どこ行くの?このまま行くと高校生には似つかわない裏通り入っちゃうけど」



グイグイ引っ張られるがまま足を進めると突き当たる道は左に曲がればホテルやら風俗やら紹介所が並んでて。まさかまさか昨日の今日でそんな展開になるとは思わないけど…だけど、ねぇ?



『お前、女やったらさらっとそういう事言うなボケ』

「だってー」

『ショップ行くだけや、こっちんが近道やって名前も知っとるやろ』

「ああ、テニスショップね」



欲求不満女、半分呆れた顔して悪態つくユウ君に舌を見せて拗ねくれると、繋いだ手にぎゅっと力が込められた。



『お前が盛ってんのか嫌がってんのかは知らへんけど、』

「、」

『惚れた女抱きたいと思うんは健全な男の心理や』

「……………」

『いつ手出されても文句言うたらアカンで、せやから覚悟しとけ阿呆女』



ユウ君の横顔はアタシを見る事なく真っ直ぐ前を見てたけど、掌から伝う力は愛しいくらいに強くて。
あのユウ君がそんな事言うなんと思いもしなかったアタシは言葉が無かった。でもそれは、単純に嬉しかったから。
気持ちが無くても身体の関係は作れるけど、ユウ君は違うんだ。



『あ、』

「え?」



だけどね、



『あそこ、公園に居るん財前や』



だけど、アタシの頭に浮かんだ対照的なものは

“ユウジ先輩やなくても感じるんや?”

光の声。



『名前、あれが財前の彼女やで』

「…あ、あの人、が……」

『あんな美人がよう高校生なんや相手するわ』



光と一緒に居る女の人はユウ君の言う通り綺麗で、光が言ってた“完璧”も頷けるくらい上品に笑ってた。光の横で楽しそうに。



『今日さっさと帰ってたんは彼女と会うからやってんか』

「……………」



いつもと変わってしまったこと、
もうひとつは、マイペースに帰り支度する光が直ぐ様部室を出て行ったこと。

バイバイ、それすらも言わせてくれなかった。



「ごめん」

『は?』

「アタシ、お腹痛い」

『腹痛いて、また?お前ホンマ食い過ぎちゃうんか?』

「だから帰る。ごめんユウ君、ショップは1人で行って?」

『え、名前?』

「また明日ね!」



“明日も明後日も一緒に居りますわ”

嘘吐き、光の嘘吐き。



ユウ君の事だけを考えればいいのに、光の声も体温も身体に染み付いた余韻が繰り返しアタシを侵した。

お腹が痛い、その言い訳すら光が考えたものなのに。
ユウ君、こんな最低なアタシでも好きだって言ってくれるの?
アタシは……前みたいにユウ君だけを見れるの?

必死に走って逃げるアタシは横を通り過ぎる人も自転車も、シルバーの車も映らなかった。


(20090330)




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