monochrome mood | ナノ


 


 12.



答えたい言葉より


確かな想いを胸に





monochrome mood
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『うーん、美味しい!』

「ホンマよう食うな…」

『ま、まだ5個目だもん!ユウ君だって4個食べたんだから変わんないじゃん!』

「阿呆っ!高い金払ってんねんから4個は食べな元取れへんやろ!」

『とか言って食べたかっただけでしょー』

「何やと?阿呆な事ばっか言うとったら死なすど!」

『ゆ、ユウ君声でかい…!』



カップルになったからって特別何かが変わる訳やなくて、イチャイチャイチャイチャする訳でもなく友達の時と一緒で悪態付いた様な言葉に拗ねくって呆れた様な返し。

せやけどそれが楽しくて、それが俺の求めてたもんやった。気持ちが通じ合えればそれでいい、それだけで名前が昨日より可愛くて昨日より近くなる。
そんな阿呆みたいな想いは俺の頭ん中だけで十分や。死んでも口になんか出せへん。





  □





『、ユウ、くん?』

「おっそいわ」

『え、だって、学校一緒に行くなんて約束、してないよね…?』

「うううっさいわ!」



それでも少しくらい特別を表に出したくて柄にもなく名前の家の前で待ち伏せしてみたり。
当然驚いた顔するアイツにちょっとムカついて、黙って学校行けばええねんボケ、とか勝手な事ばっかり巡らせて。



『…ふふふー』

「何やねん!キショい笑い方止めろ!」

『いいじゃんいいじゃん、アタシ嬉しいんだもん!』

「何がや!引っ付くなや暑苦しい!」

『もう照れないでよー』

「誰が照れるかド阿呆っ!!」



名前の言う通り照れてました、なんや認める事出来ひんから繋がれた手が嬉しいっちゅうのもやっぱり秘密や。

そんな昨日の今日で浮かれる俺は財前の心境なんか知ろうともしてへんかった。



『おっはよ蔵ー!』

『おは…あー、朝から熱いなぁ?』

『へへ、羨ましいでしょ?』



名前と歩く通学路は1人で歩いてた時より幾分早くて、あっという間に部室まで来てた。
部室に入るなりニヤニヤ笑う白石が居って、それに乗っかってヘラヘラ笑う名前を見ると全身全細胞が擽ったくて痒くて、自然と眉が寄る。せやけどこんな感覚、嫌いやない。



『ユウジも頑張ったんやなぁ?偉い偉い』

「別に何も頑張ってへんわ!さっさと朝練始めんで!」

『もうユウ君ってばさっきから照れてばっかりなんだからー!』

「せやから照れてへんて言うて『はよース』、」



しつこくしつこく阿呆な事ばっかり言う名前の頭を叩いてやろうと手を振り上げた瞬間、後ろから重なる声に肩が跳ねたのが分かった。



『光、おはよ』

『……やっと付き合い出したんです?』

「…せや」



繋がったままの俺と名前の手を見て特別驚くとか変わった反応する訳でもない財前を尻目に張り詰めた空気を吸い込んだ。

財前からしてみれば昨日一方的に殴られて機嫌が悪かった俺に文句のひとつも言いたいやろうに何も言わへんかった。打って変わって女に引っ付く俺は不快なんちゃうんか?
幾らあれが名前の為やって思っても冷静に考えれば非があるんはこっちで、寧ろ財前に非なんか無い。



『おめでとーございまーす』

「、」

『ユウジ先輩も名前先輩も見とるこっちが苛々してたんですわ。どっかのヘタレ先輩みたいにならんで良かったスね』

「……………」



瘡蓋を作った口角で笑う財前は年下な癖に俺より全然大人で格好良いと思った。
まるでこうなる事を予測してたかの様な顔付きに、財前が俺の為に挑発してくれたんちゃうかって…

悪かった、その一言を頭に浮かべてジャージに着替える財前の背中を眺めてた。
俯いて茶色く影を作りながら曇った顔する白石に疑問符を並べながら。


(20090312)



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