14.
君が好きだからこそ
君の為に動いていたのに
monochrome mood
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『また明日ね』
全速力で走って行く名前を追い掛けれへんかった。
思い出したのは財前を殴った時のことで。やっぱりアイツは財前の事が好きなんちゃうかって…
「…財前には彼女居るやろ」
せやったら俺でええやん、言いたいのに財前を見た名前は眉を下げて涙目やったから…俺は言えへんで。兎に角今は、アイツが落ち着くまで待つべきなんか、そう思た時やった。
『え、光くんあの子とホテル行ったの!?』
「!」
聞こえてきた言葉に耳を疑って振り返ると温厚そうな彼女が怒ってるような素振りやった。
生憎公園の外にまではそれ以上会話は聞こえへんかったけど、痴話喧嘩やとは目に取れて。
財前が浮気したのも、その相手も分かってしまえば辻褄が全て合うた気がした。
名前は出さへんかったけど相手は名前、せやから名前は財前が気になる。そう考えれば急に財前に傾いたのも頷ける。
「…何が“おめでとう”や」
今朝、財前に申し訳無く思た自分を撤回したくて情けなくなった。洞察力に自信があった癖に本当の財前に気付かれへんかったこと、ホンマに腹立つ。
もしかしたら名前があの時裏通りを気にしてたんは財前のせいで過剰反応してたから?
「一発殴っただけじゃ足りひんわ…」
俺は意を決して家に帰った。
ムカついてムカついて仕方ない気持ちを抑えて、名前に一言『好きや』とメールを入れた。
返ってきたメールは有難うの3文字だけやったけど、財前なんかに渡す気はないって拍車かけて思ったんや。
□
「白石、話あんねん」
『話?俺に?』
翌日、名前を迎えに行かず早めに家を出た俺は既に部室に居てた白石に声を掛けた。
昨日決め込んだ事を伝える為に。
「俺部活辞めるわ」
『、え?』
「財前が居る場所でテニスなんやしたない」
『……………』
「名前も辞めさすつもりやから」
テニスは好きや。
小春が居るこの場所も好きや。
せやけど財前が居る前で普通の顔をしてられる訳がないねん。
アイツの顔見たら絶対また殴りかかって白石にも皆にも迷惑かける。せやったら辞める方がええ。名前も財前から離れた方がええねん。
『財前と、何やあった?』
「白石は全部知っとったんやろ」
『…全部かどうかは、分からへんけど』
気使てんのは分かるけど、白々しく苦笑する白石にも嫌気がして。
そういう事があったんなら、知ってたんなら何で俺に言うてくれへんかったんやって関係無い筈の白石まで巻き込んでしまう程、俺の脳内は荒れ狂てた。
「財前が好きやったんならまだ分かるで、せやけどアイツはそうやなかったのに無理矢理ホテル連れ込んだとか許される訳ないやろ!白石も何で黙ってんねん!してええ事と悪い事があるんちゃうか!?」
『、無理矢理?』
「せや、振り回されっぱなしの名前が可哀想やろ!」
そんな俺を見て白石は苦笑を止めてシワを寄せた。
『ソレ、誰から聞いたんや?名前から?』
「ちゃう、アイツが言う訳ないやろ…昨日財前と彼女が公園に居ったん見えて話が聞こえてきたんや」
言うなりシワを寄せたまま視線を外す白石は何処か静寂を纏ってるような、そんな風に見えた。
『俺は第三者の他人やから首突っ込むの止めててんけど、』
「言いたい事あるなら早よ言えばええやろ」
『……財前にも口止めされてた事やねんけどな』
「ええから言えって言うてんねん!」
『ユウジ、あんな―――』
「……………」
早朝、ベージュ掛かった壁に囲われた部屋で俺は思考回路がストップしてしもたんや。
(20090330)
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