09.
ピンク色の世界は
僕に勇気をくれた
monochrome mood
mood.9 pink
『ユウジ、』
財前を追い掛ける名前の背中とは別に白石の声は呆れ半分優しさ半分、そんな色やった。
『何で、とは聞かへんけど少し一方的なんちゃう?』
分からんでも無いけどな、と肩に手を乗せる白石は『何で』とか言う前に理解してて、俺も財前も名前の気持ちも一番よう分かっとんちゃうかって…
同じだけ生きて来たのにこの差が悔しくて羨ましくて。俺は洞察力があるって、自信あったけど肝心な事は何ひとつ見えへんくて感じ取れへんくて、小さい男や。
「白石」
『ん?』
「名前は財前が好きやろ?」
『…………』
「財前はどうなん?」
財前がホンマはどう思っとんか。白石なら知っとんちゃうんか?
名前を遊びに付き合わせて面白がっとんか、それとも俺が気付いてへん何かがあるんか……
『…ユウジ、お前が見て来た事が全てや』
「…………」
『自分の眼が信用出来ひんの?』
「そういう訳ちゃうけど、」
『せやな、強いて言うなら…』
名前はホンマに財前が好きなんやと思う?
その問い掛けは心理戦の言葉遊びな気がして否定するんが正しいんか、肯定が正しいんか、分からへんかった。
名前は確かに財前を見とったし、昨日から“財前”に反応しとったんは間違いないことや。
せやのに白石の口振りは否定的な物言いな気がして…俺を沈黙に導く。
オレンジから紫へと変わっていくピンクの空は白石を染めて優婉に映す。
完璧な顔を崩さず笑う白石は多分、この空みたいに広くてでかくて全てを包んでくれる様な、そんな存在。
『質問変えよか?』
「、」
『ユウジは、名前の為に手出したやんな?一番大事なんはその気持ちちゃう?』
包み込んでくれるのは、部長やからか友達やからか。
正解は多分両方で贔屓目やなくて俺を後押ししてくれる。白石にとって財前も名前も俺も、平等に部活仲間で友達やから、せやから何も答えへん代わりに笑ってくれるんやって。
「白石、俺、」
『ユウジも明日からは真面目に練習するんやで?』
「分かった堪忍白石っ!」
とやかく考える前に俺の想いを貫けばええ、そう言うなら俺は走るしか無かった。
財前の傍に居る名前をこっちに取り戻したいって、素直に思ったんや。
「もしもし?」
《ユウ、君…?》
「名前?今何処や、財前と一緒に居るんか?」
携帯片手に学校を抜けて、右か左かと答えを急せて。
《光は帰ったから、学校に戻ろうかと思って、近くのコンビニの辺りに、》
「ほなそこで待っとけ!」
右や右、
90度曲がって脚を動かせて、今の勢いでアイツに言う。
今なら遅過ぎたとか、手遅れにならんはずやから。財前が一緒に居らんっちゅうことはそういう事やねん。
「名前!」
『ユウ君、どしたの急に』
「“うん”しか言うたらアカンで!」
『え?何が、』
「俺と付き合え!」
『、』
「お前は俺が好きやろ!せやったら黙って頷けばええねん!」
向かい合う身体は薄暗い景色でひとつの影を作った。
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