05.
どうして貴方は私が欲しいモノをいとも簡単にくれるんだろう
そんな貴方の声に惹かれない訳が無かった
fiction.5 voice
「はー、美味しい…!」
『ちゃんと味わって食べなアカンで』
「分かってますー!このお肉溶けてくんだけど…ヤバイ!」
オサムちゃんが焼肉を奢ってくれた日。
ロースもカルビもめっちゃ高いやん、なんてブツブツ言うオサムちゃんを余所にアタシは口の中で溶けていく和牛をここぞとばかりに堪能してた。
高校生でこんなお肉食べれるなんて本当贅沢!やっぱり美味しい物食べてる時って超幸せ。
『ああ!今俺の分の和牛食べたやろ!』
「残ってたから要らないのかなって」
『阿呆!置いとっただけやん!』
「ごめんごめん。オサムちゃん有難う、大好き!」
『…そんなんじゃ誤魔化されへんからな』
拗ねた顔して程よく焼けた椎茸を口に放り込むオサムちゃんは何だか可愛かった。
本当オサムちゃんと居ると楽しくって、いつも笑ってる自分が嫌いじゃなかった。
「ふー…お腹いっぱい!ご馳走様でした」
『ホンマよお食うたな』
「だってお箸止まんなかったんだもん!」
『名前は、人一倍奢り甲斐があるわな』
「どういう意味よ!」
ククッ、と笑いながら煙草に火を点けるオサムちゃんを見ると、あの事を思い出したんだ。
吸う度にチリチリと燃えて短くなっていく煙草は人の人生みたいで。こうも呆気なく終わって行くのかなって。
「ねぇオサムちゃん、永遠っていうのは…やっぱり存在しないのかな…」
光は無いってハッキリ言ってた。そんなもの要らないって。
だけどそれじゃ寂しすぎない…?
永遠というものに縋りたいアタシは間違ってる?
オサムちゃんは一瞬驚いた顔してたけど灰を落とすと口を開いた。
『まぁ、こうしてる間にも時間は経っていくもんやし無いかもしれへんなぁ』
「そ、か……」
オサムちゃんもそう思ってるんだ。何かショック。
『せやけど名前、』
「、」
『今名前と居る事は変えらへん事実やし、白石や謙也、財前と過ごした時間は永遠なんちゃう?』
「…え?」
『自分の頭ん中で残る時間は、これからも一生思い出になってるやろ。それが永遠っちゅうもんちゃうか?』
「…………」
少なくとも俺は、お前の事忘れたりせえへんから
オサムちゃんの言葉はいつもいつもアタシに響いてくる。
優しくて、低すぎない声がアタシを落ち着かせてくれるんだ。
『…とか言うて、お前が俺ん事忘れそうやけど』
「…ない…」
『ん?』
「オサムちゃんの事は絶対忘れない…」
『…名前……』
「忘れない、もん…」
俯いてるアタシが意地を張ったみたいに繰り返して言うと、ククク、と笑い声。
「な、何で笑う、の――……?」
顔を上げて反論しようとした瞬間、目の前にオサムちゃんの手があって。
テーブルを挟んだ距離なんてものともしない長い手は小指だけ立ててた。
『ほな、約束』
「オサムちゃん…?」
『俺ん事は忘れんで』
「……アタシは…?」
『絶対忘れへん』
絡めた小指と小指が愛しくて、離したくなかった。
見えないものだからこそこの約束が嬉しくて、形として表れた事が何より幸せに思えた。
この時のアタシは、光の事なんて頭に無かったんだ。
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