Remembered breath | ナノ


 


 04.



人の気持ちなんて変わらないわけがないのに

でも信じたいのは傲慢なんだろうか





4.belongings






名前先輩、今からでも間に合う?
俺先輩が好きやってやっと気付いたんや。


オサムちゃんと行かんで
他の男に笑いかけんで……





楽しそうに学校を出て行く2を止めれへんかった俺。あれだけテニスしたくて興奮してたのに、そんな感情はどこかへ消えてて先輩の事しか頭に浮かばへんかった。

家に帰ってからも、寝て起きてからも、名前先輩の事ばっかりで。
1ヶ月前に戻れたらって、ホンマに思う。



『財前、お前ゴミ捨て早よ行って!何ボーっとしてんねん』

「あー、せやな…」



掃除時間、ゴミ捨てに行かなアカン俺は先輩でいっぱいいっぱいになっててゴミ箱持ったまま立ってた。
クラスの奴に声掛けられるまで何してるか分からへんて、めっちゃ重症やわ。

ゴミ箱を抱えて焼却炉へ向かうと、空になったゴミ箱を振り回しながら焼却炉から教室へ戻ってる女が居った。


名前先輩や……



『あ、光もゴミ捨て当番ー?』

「うん…」



俺に気付いた先輩は駆け寄ってきてニコニコしてた。
今まで何とも思わへんかったのに、好きやって自覚した途端、それだけで嬉しいって感情が溢れてくるんが分かった。
この人、こない可愛かったんや。



『ゴミ捨てって嫌だよね、重いし臭いし。匂い染み付いちゃいそう!』

「道理で先輩からはええ匂いした事ないと思たわ」

『うわ、酷っ!アタシはいつもゴミの匂いだって言いたいわけー?』

「ククッ、冗談やん」

『知らない!光だって臭いもんね!』



何でもない話やのに、先輩とっちゅうだけでこない楽しいもんなんやなって、心から笑う自分が居った。



「うっさいわ。冗談やって言うてるやろ」

『もう遅い!光なんか知らない!!』



拗ねる先輩が可愛くて、俺が頭を撫でてやろと手を伸ばした瞬間、



「頑固やな、そんなんやったら――…」

『!』

「…………」



歯を食い縛って身を捩る先輩。
俺、拒絶された……?



「先輩、」

『あ、ご、ごめん!っていうか携帯鳴ってるからちょっと待って』

「…………」



俺に触られるんそんなに嫌やった?
……あんな顔、初めて見た…。

拒絶されるなんや思わへんくて、正直ショックやった。そんな俺を余所に、先輩は携帯を見て一気に笑顔に戻った。



『やった!』

「何か、ええ事あったん…?」



俺が尋ねると先輩はさっきの事なんか忘れたみたいに俺にも笑いかけてくれて。
もしかしてビックリしただけやったんやろか。そない気にする事ちゃうん?
そんな事考えてたのに。



『あのね、今日オープンしたカフェがあるんだけど部活終わったら行くんだ!ワッフルが美味しいらしくって超楽しみ!』

「フーン、ええやん」

『でしょ!?てっきり嫌がると思ったのにオッケーしてくれたんだオサムちゃんが!』

「、オサムちゃん…?」

『うん!オサムちゃん誘ったの!昨日のお礼に次はアタシが奢ってあげようかなって』



何でまたオサムちゃんなん…?
今までは俺と部長と3人で寄り道したりしてたやん。それじゃアカンの……?



「先輩、先輩は…を……へんの?」

『え?ごめん聞こえなかっ『そこ。何サボってねん』』

「!」



先輩は俺を誘ってくれへんの?

その言葉は届く事無くあの人に中断された。



『オサムちゃん!何やってんのこんな所で』

『そらこっちの台詞やわ。今は掃除時間やねんで。お喋りしとる暇も携帯弄る暇も無いはずやけど?』

『そんな固い事言わないでよ!ちゃんとゴミ捨てたんだし』



出来れば、今はオサムちゃんに会いたなかった。
タイミング良く出て来て、狙ってたんちゃうんかって思てしまうほど苛々する。



『まだ他の奴は真面目に掃除してんねんで』

『分かった分かった、ちゃんと掃除するから!それよりさ、』

『ん?』

『――――――』

「、………」



昨日よりも近くで、目の前で繰り広げられる先輩とオサムちゃんの話と耳打ちする姿が、嫌で嫌で堪らへんかった……
一緒に居るのに俺は蚊帳の外でしかなくて。
見せつけられる気分。



『ホンマお前は食う事ばっかやなぁ』

『食がアタシの生き甲斐だもん!』

『その内真ん丸になるんちゃうかー?』



こんな会話、見たくないのに。
この間まではそこに居ったんは俺やのに。
お願いやからオサムちゃん、もう何処か行って。

そんな俺の眼に映ったもんは、



「!?」

『デブにならないもん!って、ちょっと止めてよ!髪ぐちゃぐちゃになっちゃう!』



オサムちゃんに頭撫でられて笑う先輩。

オサムちゃんは、平気なん……?



この瞬間、俺の中で何かが音を立てて切れた気がした。



「ちょお来て!」

『うわ、なんや財前!』

「話あんねん!」

『ひ、光?』



気付いたらオサムちゃん引っ張ってて。



『……俺に話って、まさか告白ちゃうよなぁ?』

「茶化さんで」



茫然とする名前先輩から離れたところでオサムちゃんの腕を離した。
こっちは真剣やっちゅうのにニヤニヤ笑うオサムちゃんがムカついてしゃーない。



「どういうつもりやねん」

『…何が?主語言うてくれへんと分からへんで』



飄々とポケットとから煙草出して火つけるオサムちゃん。
俺の話聞く気あるんか?



「先輩は…名前は俺のもんや…」

『………』

「1ヶ月前に名前から好きやって言われたんや、せやからオサムちゃんは近付かんで欲しいねん!あの位置は俺のもんや!」



それまで俯いてたオサムちゃんが白い息を吐くと俺の眼を睨む様に見た。



『…やから何や』

「、」

『告白されてフったんはお前やろ?』

「せ…せやけど今は、」

『名前が今もお前が好きやと思う?』

「…………」



オサムちゃんの言う事は最もやけど…それでもあの人の事信じたいんや……



『名前がお前の事好きで、財前も名前が好きなんやったら付き合えばええ話や。そこに俺は関係無い』

「、それなら俺が『せやけどや』」



俺がちゃんと告白する、そう言おうと思たのに遮られてしもて。
眉間にシワを寄せてさっきより一層睨み付けてくる。



『お前がこないな事言うんおかしないか?』

「、え?」

『勿論名前は俺のもんちゃうし、アイツは女やねん。俺のお前の、そないな物扱い出来るもんちゃう』

「……………」

『アイツやって感情があんねん。所有物みたいに言うてる間は幸せになんかなれへんで』



オサムちゃんの言葉に反論なんか出来ひんかった。
先輩の気持ち無視して、勝手に妬いて、オサムちゃんに近付くなとか言うて……

先輩の為やない。自分の為だけに先輩を所有物やと思てたんは俺や。
自分の馬鹿さ加減に呆れてしもた。



名前先輩、ごめんな…
先輩の事好きになる資格無いわ…





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