Remembered breath | ナノ


 


 03.



君が望むならば
いつだって手を差し伸べる

君が望むならば
僕はいつだって君を抱き締める


その為に此処に居るんだ





3.Desire put out to word






俺は今、名前の真ん前に居るやろ?
甘えれる奴利用して、溜め込んでるもん全部吐き出したらええねん。吐き出して吐き出しまくったら、明日からまた笑えばええ



それは本心やった。
財前が好きで告白したあの日、俺に電話くれた事が嬉しかった。
ただ寄りかかる存在が欲しかっただけやとしても、俺を選んでくれた事、善かったなぁって。

泣いてる顔見るんは嫌やけど、泣くだけ泣いて明日から笑てくれるんなら俺はいつでも力になったるから。



「名前、よお頑張ったな」

『っ、オサム、ちゃ……』



わんわん泣いてるアイツは小さな女でしかなかった。
ホンマに財前が好きで、全力で恋した女。

せやけどな、俺やってお前が財前の事見てる間、名前の事見てきたんやで。
教師と生徒、越えられへん壁があるんも事実やし、お前ん事困らせたなかったから名前を応援して押し殺してきた気持ちやけど……欲が出た。

財前の代わりでもええ。せやから俺を見てくれへんか…?



『…オサムちゃんが居てくれて、良かった……』

「―――、……うん…」



その一言で救われた気がした。

名前。
今日も明日も明後日も、ずっと。
呆れるくらい俺はお前の傍に居たるから。

誓うように背中を強く抱き締めた夜、嗚咽が治まって眼を閉じたアイツに好きやと告げた。
返事なんか要らへん。ただ言葉に出てしもただけやから。辛い事は寝て忘れてしまいや。





  □





『あ、そうだ!オサムちゃんオサムちゃん!』

「なんや?」



俺が言うた通り、翌日から名前は笑てた。あれから1ヶ月経った今も、財前と普通に接しながら。



(オサムちゃん、匂うよ)



相変わらず冗談が好きなアイツはまたくだらへん事言うてて。



「…ハァ?誰が臭いって?」

『アハハ!オサムちゃんが親父臭いー!超匂うー!』

「名前、もう一辺言うてみぃコラ」

『しゃーないやんオサムちゃん、オサムちゃんが親父なんはホンマの事やし』

『ホンマ匂うわー!勘弁してやオサムちゃん!』

「白石、謙也、お前等休憩終わったらシゴいたるからな」



部員等皆笑てて、俺も面白いねんけど。
堂々と耳打ちされてる間だけは、俺の気持ちが通じてんのちゃうかなって錯覚してしまいそうなほど心地いい瞬間やってん。



『オサムちゃん、』

「臭いんなら近寄らんでー」

『冗談じゃん!臭くないよ、善い匂いー!』

「…どんな匂いや」



休憩が終わって練習開始すると、また横で名前が俺を呼んだ。
背伸びして耳に顔を近付けてきた瞬間、アイツの息が掛かって肩跳ねてしもた。



(今日ご飯連れてって欲しいんだけど)



肩が跳ねてしもたやなんて恥ずかしいけど、名前の冗談やなくて本気の誘いに年甲斐もなく喜ぶ自分やったから。
せやから俺もアイツに耳打ちして。



(たまには好きなもん奢ったるわ)



この時名前が歯を見せてながら笑てた顔は、俺が望んでたものやったんや。






『オサムちゃん早く行こうー!』

「…………」

『、どしたの?』

「何でもない…行こか」

『アタシ焼肉食べたいー!』

「もう少しコスト落として欲しいねんけど」

『好きなもん奢るって言ったじゃん!』

「言うたけどー…俺の給料安いん知っとるやろ」



部活が終わって名前が俺の腕に引っ付いて来た時、財前が俺等を見てた事は気付かへんフリしてテニスコートを後にした。





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