Remembered breath | ナノ


 


 22.



辛い事も哀しい事も


全ては僕に必要な事でした





fiction.22 It is bitter.





オサムちゃんが帰った後、煙草を片手に原稿用紙に向かった俺は、人生初となる反省文にも関わらずスラスラと升を埋めていった。



「…あと少しで終わりや」



初めは「反省してます」とか「申し訳無かったです」とか、そんな上っ面だけの言葉で終わらすつもりやったけど…オサムちゃんと話してそれじゃアカンて思たから。

今の自分を文章にするなんや馬鹿げた事、恥ずかしいし考えられへんかったけどあの人に伝えたかったんや。



(ピンポーン)



もう一段落、丁度煙草の火を消したその時にインターホンが鳴った。
担任か誰か、兎に角謹慎についての訪問やろうと思った俺はシャーペンを置いて玄関に向かった。

相手も確認せずドアを開けた事に後悔するなんや思わへんかったんや。そこに居ったんは、



「名前、先輩…?」

『ひかる…』



担任やない、名前先輩やったから。
何で来たんですか?何しに来たんですか?先輩は俺に会いたくないはずやろ…?



「……帰って下さい」



俺は、会いたくなかった。
謹慎やなんて格好悪いし、あんな表情見た後で合わせる顔なんかない。



『ひ、光っ!待って、話しよう!?』




先輩やと分かって直ぐ閉じたドア越しに聞こえてくる先輩の声が切なくて。
会いたくないのに、合わせる顔ないのに、何処かで“嬉しい”と思う自分が居る。



「何しに来たんスか」

『出て来てくれないの…?』

「謹慎中ですよ」

『分かってるけど、』



お願いやから早く帰って下さい。
先輩と喋ってるとアカンのや…先輩の声聞いてるだけでそれだけで幸せで、抱き締めたくなるんです。



「何です?またヤられたいんスか?」

『……………』

「先輩、俺満足したんですわ」

『、え?』

「アンタと1回ヤって気済んだ」

『ひか、る…?』

「別に、もうどうでもいいんで帰って下さい。俺は話したい事なんや無いですから」

『―――――』



ホンマは

会いに来てくれて有難う

そう言いたかった。どんな事でもいい、名前先輩と話したかった。

せやけど、ああでも言わな先輩は優しいから俺に気使て笑うんやろ?そんな無理はせんでええから。先輩にとって俺は“最低”そう思っとって下さい。
それだけの事をしたんやから。




そして暫くして先輩の気配が無くなったのを確認してから反省文を仕上げた。
その日はベッドに横になっても眠気に駆られる事は無くて、立ち上がっては煙草に火を点ける、それの繰り返し。100円ライターのカチカチと鳴る音が馴染んで来た頃、箱には後1本しか残って無かった。



「最後は、帰ってからや…」



気付いた時には外は明るくて、真っ白な陽射しが窓から入る。時刻は6時ピッタリで、早朝なら誰に会う事もなく外を歩けると踏んだ俺はジャケットのポケットに残り1本の煙草を入れて部屋を後にした。


ずっと部屋で煙を吸ってたせいか、外の空気は余りにも新鮮で冷たくて。思わず身震いをお越しそうになる寒さに嫌気が差すけど、何か、身体は軽い気がしてた。

それから少し歩いて目的地やったオサムちゃんの部屋の前まで行くなり玄関のポストを開ける。
まだ寝てるかもしれへんし、静かに新聞に反省文を挟んでると眼に入ったのは女モノの靴。

あ、名前先輩が来てたんや…

それなら反省文はまた今度にしようかとも思たけど、先輩が見るはずも無い。それならええわとポストに突っ込んで最後の煙草を口にした。



「…やっぱ苦いわ」





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