21.
例え僅かな時間だとしても
君と過ごした時間は
かけがえのないものだった
fiction.21 Make it for you.
財前が煙草を吸ったのが気紛れやったとしても嬉しかった。
俺が吸うものと同じ、それは気紛れやなくてアイツの意志やから。
きっと煙草に手を出したんも気紛れなんかやなくて名前を想って。名前を抱いて、余計欲しくなったんやと思う。名前の隣に居るのは自分で在りたいって改めて思たんやろなって……
「ハァ……」
もし、俺が居らんかったら?
財前にフラれても名前は財前が好きで財前もその内自分の気持ちに気付いて丸く収まってかもしれやん。
俺が居てへん方が良かったんちゃうか……?
「、メールか…」
そんな思いの中、不意に振動する携帯を開くとメールを受信してて。
“from/名前”の名前に、連絡してへんかったな、なんて申し訳ない気持ちを浮かべた矢先。
(アタシはオサムちゃんが好き)
その文字に心臓が掴まれた気がした。
名前は財前と付き合うた方が“普通”の恋愛が出来て幸せなはずやのに、とか
財前の方が大事にしてくれる、とか。
そんな言い訳がましい理屈を並べてた自分を消してしまいたくなるくらい、純粋に名前と一緒に居りたいって…思わずにおれへんかったんや。
「このタイミングでアカンやろー…」
直ぐに発信履歴を開けて発信ボタンを押す。早く、出て?
《、オサムちゃん?》
「ん。オサムちゃんやでぇ」
数秒間のコールも待ち遠しくて、望んでた声が聞こえてくるなり《オサムちゃんと話したかった》なんや言うてくるから口元は緩んでしもて収拾つかへん。
「名前、」
《うん?》
「オサムちゃんとデートしよっか」
名前の甘い声聞いたら会いたい気持ち我慢出来ひんかったんや。
そう言うたら笑われるん?
せやけどホンマの話やねんで…?
『で、結局オサムちゃんの家なんだ』
「立派なデートやろ?」
『デートっていうか何て言うか…』
名前を迎えに行って向かった先は毎度お馴染みの俺の部屋。
“デート”の言葉に期待してたらしい名前は少し不満そうな顔してたけど、俺的には2人になれればそれで良かったから。
『まぁいいけどさ』
「せやろー?贅沢は敵やでぇ」
『別に贅沢言ってるわけじゃないもん!』
「フーン、どうやろなぁ」
『……オサムちゃん、』
「んー?」
(今日泊まってもいい?)
耳打ちで言われたら「駄目」とは言えへん。
ホンマはアカンのに、明日は土日で学校休みやからなんて理由付けて、今日はずっと一緒に居りたかった。名前の事、離したくなかった。
今傍に居てへんかったら、俺から離れていってしまうんやないかって不安があったんや。
財前の事を考えながらも矛盾した不安が…
俺は、どうするんが正解なんやろうか…
そんな迷いの中、ソレを顔に出さん様に振る舞いながら適当に飯食って布団に潜ると、暫くして名前が口を開いた。
『今日、ごめんね…』
主語が無くても分かる意味に上手く言葉が見付からへんくて。
“ひかる”
あの時の名前の声が今でも嫌に響いてくる感覚に頭痛すらしそうな気分。
『本当はね、光に会いに行ったんだ。帰れって追い返されたんだけど』
「…………」
『だけど思ったんだ、アタシはオサムちゃんが好きだからオサムちゃんだけ見てればいいんだって。だから光との事は忘れる』
『…って、オサムちゃん寝てるんだよね…おやすみなさい』
黙りで寝たフリを決め込んだ俺の頬にキスを落とす名前やけど、ソレを鵜呑みにしてええんか分からへんかった。
財前が『帰れ』って言うたんはお前の為やねんで?アイツはアイツなりに名前の為に動き出したっちゅうことや。
せやったら俺は?自分の気持ちを貫き通して傍に居る事が名前の為になるんか?
お前は、ホンマに俺でええんか…?
そして翌朝、ポストに突っ込まれた新聞の中に紛れたあるモノを見て、迷う心に終止符をつけるが如く、俺は名前と別れようと決めた。
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