Remembered breath | ナノ


 


 23.



全てをぎゅっと包み込まれる様な


そんな愛があった





fiction.23 gratitude





オサムちゃんが好き

そのメールに込めた想いは本物で、電話越しに聞こえてくる声で改めて思った。
オサムちゃんの声も、顔も、口調も、全部大好きだって。

それを伝えたくてオサムちゃんと会ったのに、隣では静かに眼を瞑ってる。
一緒に過ごした時間はいつもと同じで笑ってたけど本当はどう思ってたんだろう…笑顔の奥では笑ってなかったんじゃないの?そう思うと言葉に出さずに居られなかった。



「今日、ごめんね…」


「本当はね、光に会いに行ったんだ。帰れって追い返されたんだけど」


「だけど思ったんだ、アタシはオサムちゃんが好きだからオサムちゃんだけ見てればいいんだって。だから光との事は忘れる」


「…って、オサムちゃん寝てるんだよね…おやすみなさい」



面と向かって言えば良かったけど、“光”について触れないオサムちゃんを見てるとアタシから話題を振るなんて出来なくて。寝てる時に謝ったって届くはずないのに…臆病なアタシでごめんなさい。

心の中で何度も何度も謝ってオサムちゃんの頬っぺに触れると、口唇から伝う温度は厭に冷たい気がした。



朝起きたら、もう一度オサムちゃんに謝りたい。そう思って目蓋を閉じた。
それなのに……









「…う、ん……」



眼を開けて覚醒した時には真っ暗だった部屋も明るくなってて、妙に物寂しいと感じれば隣に居たはずのオサムちゃんの姿は無かった。



「、リビングに居るのかな…」



あまりスッキリとしない身体を起こしてオサムちゃんを探す為に寝室を出るけど…リビングには居ない。2DKの広いとは言えないこの部屋で、リビングにも寝室に居ないとしたら何処も探しようが無かった。

何処に行ったんだろ…
コンビニでも行ったのかな…

何だか胸騒ぎがして、電話を掛けようと携帯に手を伸ばした時、



「……煙草、と何?」



眼に入ってきたのはテーブルに置かれていた煙草と真っ白な紙。
あのオサムちゃんが煙草を置いて出掛けるなんておかしい…それにこの煙草は光と同じ……



「…見ろ、ってこと?」



煙草を除けて手にした紙は何枚か重なって2つ折りにされていた。ソレを開いて中を見ると“反省文”と書かれた光の字だった。



「、光の反省文…」



これを本当に読んで良いのか悪いのか分からない。だけど、オサムちゃんが敢えて此処に置いたんだと考えたら…

読めって事なんだと思う。











  反省文

1年7組 財前光



僕には好きな人が居ました。

彼女が好きだと気付いたのは最近で、その時は既に彼女には大切な人が居た。
それでも僕は彼女を諦める事が出来ず、自分が思うままに行動していて子供染みた我儘を突き通すだけだった。

ある日、彼女の大切な人から『それでは誰も幸せになれない』と言われたけど僕には理解出来なかった。理解しようともしなかった僕は更に顧みず猪突猛進、彼女に自分をぶつけているだけで。彼女の気持ちも、あの人の気持ちも、何も分かってなかった。

彼女があの人を好きで、あの人も彼女が好きで、その光景を目の当たりにする度に僕は嫉妬と嫌悪の感情が押さえ切れず彼女を傷付けてしまう結果を生んだ。
僕は悪くない、そう思って居たのに彼女の笑う顔を見ると涙が溢れてしまう。それは彼女の笑った顔が慈悲に見えたから。その時やっと、僕は自分の犯した過ちの大きさに気付いた。今更遅すぎる過ちに気付いたってどうする事も出来ないのに。

そして僕はもうひとつ過ちを犯してしまった。
彼女を愛するが余り彼女の“大切な人”になりたくて、あの人と同じモノを手にした事。僕に比べて大人過ぎるあの人の味は苦く善いモノなんかじゃなかった。改めて自分じゃ駄目だと言われてる気がしてならなくて。
本当は理由なんて無いと思って居たはずなのに、あの人が羨ましくて仕方ない自分。藻掻けど藻掻けど変わらない現状に全てがどうでも良くなった瞬間だった。

僕が誰の力も借りないと傲慢に思って居たのに手を差し伸べてくれたのはあの人。結局はあの人に救われて今の自分が居る。どんなに頑張っても背伸びをしても届かないと思い知らされた。
それだけ謝意の気持ちが湧いたということ。有難うございましたと心から伝えたいと思った。情けなく駄目な自分を気付かせてくれた事、そんな自分に優婉で居てくれた事、本当に感謝しています。

こんな自分だからこそ、今なら彼女とあの人の幸せを願う事が出来る。
彼女には最後まで傷付けてしまうばかりで憂えさせてしまったと申し訳なく思うけど、今の僕の願いは彼女とあの人が2人で笑って居て欲しいということです。

彼女が好きだから、だから彼女に幸せになって欲しいと初めて思いました。

今まで迷惑掛けてばっかりですみません。
ずっと笑って居て下さい。
好きでした。









「…ひか、る……」



どうしようとも涙が溢れて止まらないアタシに、携帯が1件のメールを受信した事を知らせていた。


(さよなら。頑張れ。)





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