20.
形ないもの故に
罪な心だった
fiction.20 answer
結局アタシが教室に戻ったのは放課後だった。
光とオサムちゃんが気になって気になって、もしかしたら直ぐに連絡が来るかもしれないって思うと図書室から出られなかった。
でも、結局何の着信も告げることもない携帯の代わりに放課後を知らせるチャイムが鳴って。
流石にこれ以上此処に居ても仕方ないと踏んで戻った教室は、いつもと何ら変わりなく騒々しく帰り支度をするクラスメイト。だけど、蔵と謙也だけは戻って来たアタシを見て苦笑しながら手招きしてて。
『名前、体調大丈夫なん?』
「うん平気」
『ならええけど…財前のこと、聞いた?』
首を振って否定すると蔵は眉を下げて笑ってアタシの頭を撫でた。
『財前な、煙草吸うて2週間自宅謹慎て』
「た、ばこ?」
煙草って…あの煙草?
どうしてまた急に?
『白石、オサムちゃんと同じってホンマなん?』
「え?」
『謙也要らん事言わんでええねん。何の銘柄やろうが煙草は煙草や』
こんな急に、煙草。
それもオサムちゃんと同じ銘柄。
“先輩が好きです”
光を追い詰めたのはアタシ?
アタシが、オサムちゃんを好きになったから?
「………」
『名前、』
だけどアタシは光に告白してはっきりフラれたから、だからオサムちゃんの優しさに惹かれた。
それがいけなかったの?アタシがオサムちゃんを好きになったせいで…
『名前!』
「、く、蔵…ごめん、何?」
『―――――』
「……………」
(お前は何も悪くない)
耳打ちされた言葉は優しくて、優しくて。
何も話をしてないのに解ってくれる蔵の存在が泣きたくなるくらい恍惚される。
『名前は、何も間違うた事してへんやろ?』
「本当に…?」
『財前が自分で考えてした事や』
「うん…」
蔵の一言一言にアタシの心は浄化される様に救われる。
でも、光はどうなるの?光は1人で真っ暗な中に居るんじゃないの…?
『財前の事、心配?』
「、」
『気になるやんなぁ…』
どこまでも汲んでくれる蔵に感歎するけど、これが白石蔵ノ介なんだ。
『なぁ名前?心配は心配でも、それは同情なん?』
「え…?ど、同情って…」
『“可哀想”やないなら“好き”っちゅう事?』
「…………」
同情じゃない、アタシは本当に光を心配したの
それを紡ぐ事は出来なかった。
だってアタシが好きなのはオサムちゃんで光じゃない。蔵だってそう思うでしょう?アタシが光を好きなわけないって…
『正しい道は1つやあらへんで?』
アタシの頭をポンと叩くと『名前も今日は家でゆっくりしとき』って謙也と教室を出て行った。
ねぇ、それはどういう意味なの?
蔵はどうしろって言いたいの…?
「…分かんないよ蔵…」
オサムちゃんに重ねてしまった光。
光の事を考えれば考えるほどにオサムちゃんが居なくなるという恐怖心。
アタシの心は何処にある?
確かめたくなった。本当の自分を。
だから会って話をしようって思ったんだ。
光と……
変な緊張をぐっと堪えてチャイムを鳴らす。
“ピンポン”と鳴ったソレに、インターホン越しの声を待ってたのに。
『名前、先輩…?』
「ひかる…」
前触れ無く開いたドアから覗いた顔は光本人。
『……帰って下さい』
「ひ、光っ!待って、話しよう!?」
眼を丸くしたのは一瞬で、途端に閉じられたドア。
ドア越しに『何しに来たんスか』と聞こえて切なくなる。
「出て来てくれないの…?」
『謹慎中ですよ』
「分かってるけど、」
『何です?またヤられたいんスか?』
「……………」
図書室で会った時は違う酷く冷めきった声に、あの時の怖さが過っては鳥肌が立った。
光、どうしたの…?
『先輩、俺満足したんですわ』
「、え?」
『アンタと1回ヤって気済んだ』
「ひか、る…?」
『別に、もうどうでもいいんで帰って下さい。俺は話したい事なんや無いですから』
「―――――」
やっぱりアタシにはオサムちゃんしか居ない。
何より、光に対して脅威しか生まれなかったから。
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