18.
繰り返しの様な毎日を思い出すと
君の隣はいつもアイツが居たから
fiction.18 contradict
財前光が謹慎処分になりました
職員室からの1本の電話で、曲がりくねってばっかりの出来事に蒼然とした顔付きになってたと思う。
「名前、」
『オサムちゃん、光が謹慎て…』
「俺も今から詳しく話聞いてみな分からへん」
『本当に謹慎なの…?』
「せやから、それを確かめに行ってくる…名前は1人で大丈夫か?」
『うん。もう授業戻るから…』
「ええ子やんな」
今の俺には頭を撫でてやることが精一杯で。事態を把握出来ひんで不安そうにしてる名前を勇気付けるなんや以ての外やった。
「失礼します渡邊です」
『渡邊先生!早く来て下さい!』
嫌でも焦らされる声色に勢い良く生徒指導室を開けると、そこに財前の姿は無くて担任と生徒課長、そして理事長が深いシワを寄せて俺を見てた。
「財前が謹慎ていうのは、どういう事なんです?」
『…授業も受けずに煙草吸ってたんですよ』
「煙草?」
『スミマセン!私のクラスの生徒が…』
『新米教師と部活の顧問がこれやと悪い見本になるんでしょうねぇ?』
「すいません…」
皮肉を遠慮無く言う生徒課長に対して平謝りの財前の担任が可哀想に見えた。俺に対しても同じ扱いやけど、今年初めてクラスを受け持ったというこの人の方が何倍も辛いと思う。
「財前は何て言うてたんですか?」
『“テニス部に迷惑掛かるなら学校辞める”言うてましたわ』
あの財前が?
もしかして、名前の為に…?
『ホンマどうしようもない生徒やなぁ』
「悪く言うん止めて下さい」
『え?』
「アイツやって一生懸命生きてるんです。何も知らんとひとくくりで纏めるなんや納得出来ません」
『何言うてるんですか?!元はと言えばアンタが、』
「そうですよ。俺が教育間違うてただけですから、俺が責任持って辞職します」
『わ、渡邊先生!』
財前、お前はまだまだ若いんやから責任の取り方なんや知らんでええ。
名前がそれを望むと思うか?今、財前を好きやろうがそうで無かろうがそんなんアカンて言うに決まっとるやろ?
「すいませんでした!俺の監督不届きでご迷惑お掛けしました」
頭を下げて謝るとか、柄やない俺やのに何でそうする?
それはアイツが俺の大事な生徒やから。それもあるけど…財前は、俺の好きな女が一度でも愛した男やから。
毎日放課後を一緒に過ごして、名前からあれやこれや話を聞いて…お前の善いとこも悪いとこもたくさん見えた。嫉妬する事もあったけど、何処か上手く行けばええなって思う自分が居てたことも確かで。矛盾さながら名前と同時に財前にも見守ってやりたい、そんな感情があったんや。
あの時とは違って“教師”という枠を超えてしまった今では敵対心さえ芽生えたけど、善い意味でも悪い意味でもお前は俺にとって特別やと思うねん。
『渡邊先生』
「はい」
そんな思いを駆け巡らせてると、それまで黙りやった理事長が口を開けて、じっと俺を映してた。
『私は財前君という生徒がどんな子か知りませんが…渡邊先生は彼を信用しているんですか?』
「勿論です。毎日一緒に頑張ってた仲間ですから」
『…そうですか。それなら、彼を信じてみましょう』
「え?」
『謹慎が終わったら、今まで通りテニス部頑張って下さい』
『り、理事長!?』
どうしても教師で居りたいなんや思ってへん。
今更転職は面倒臭いけど、それならそれで別にええかって思ってた。
せやけど理事長は優しく笑って俺の肩に手を置くもんやから。
『渡邊先生が財前君を信用している様に、私も貴方を信用しているんですよ』
「…………」
俺は生涯ずっと“教師”をやり遂げようと思てしもたんや。
『これからもテニス部の活躍期待してますね』
「有難うございました…!」
名前。
ひとつだけ分かった事がある。
財前はお前がホンマに好きやっちゅうこと。
それでもお前は『オサムちゃん』って言うてくれるん…?
財前の名前を呼ぶ名前を浮かべては理事長の背中に罪悪感を募らせた。
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