17.
願い事ならひとつだけでいい
貴方を愛したい
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以前誰かが言ってた気がする。
『やっぱり場所は大事だよね』
愛を求め合う場所に相応しいのが彼氏の部屋だったり自分の部屋だったり、極端に言えばラブホだったり。
雰囲気が大事だとか、ムードが大事だとか、馬鹿の一つ覚えみたいに『うん、うん』って頷いてた時もあった。
だけど、結局最後はそんな事どうでも良くて。愛する人が居て自分が居る。それ以上に何も望む必要なんて無いの。
だから今、皆が黒板に向かってるだとか、周りは不相応に本がゴロゴロあるだとか、相手が“教師”だとか…関係無い。
貴方が欲しい
それだけなのに。
『…止めよか、』
突如アタシの身体から離れるオサムちゃんは、酷く哀しそうに眉を下げて笑ってた。
「お、オサム、ちゃん…」
『今は“授業中”やからな?』
「…………」
嫌だ
止めないで
アタシに触れて
アタシを求めて
アタシを愛して
アタシの脳を支配して
そう言いたいのに言えないのはアタシが阿婆擦れの如く馬鹿だから。
「ご、めん、なさい…」
『…謝られると、辛いなぁ』
前髪で顔を隠してるオサムちゃんは口元は笑ってアタシの制服を直してくれる。
怒ればいいのに、最低だって罵ればいいのに、優しくシャツのボタンを1個ずつ止めてくれて。
無性に泣きそうだった。
どうしてアタシは“光”を呼んでしまったんだろうか。アタシはオサムちゃんが好きなのに、オサムちゃんを視てたのに。
何で、どうして…?
考えたくないのに光の言葉が谺して、邪魔をする。光が好きだったあの頃が蘇る。
違うの、違うの。
あの時は確かにそうだったけど今は違うの…
『名前、オサムちゃん居らん方がええ?』
“傍に居て”
アタシが臨んでるのはそれなのに、言葉も出なくて首を振る事も出来なくて、前髪から覗いたオサムちゃんの眼に捕われて身動きが取れない。
嫌なの、何処にも行かないで?
今もこれからも、ずっとアタシの傍に居て欲しいの。
お願いだからアタシを捨てないで。
唯一動く口唇は震えが止まらない。
オサムちゃん
オサムちゃん
縋りつきたくて、やっとの思いで力を入れた手は何の感情も無い機械音で無意味と化す。
『ごめんな、職員室やわ…“はい、渡邊です”』
「…………」
コートから携帯を出して電話口に向かって話すオサムちゃんを見て思ったこと。
“オサムちゃんは、先生なんだ”
分かりきってたのに虚無感が襲ってきて切なかった。なのに矛盾して溢れてくる気持ちは“独占欲”。
誰とも喋らないで、アタシだけを視て。他の人なんて要らないって言って。
どうしようもない嫉妬に眩暈がする。
無意味と化した腕をもう一度振り上げて、オサムちゃんに向けて伸ばすけど…再度無意味になったのは、オサムちゃんが発した言葉のせいだった。
『財前が、謹慎…?』
「――――」
謹慎、
光が謹慎……?
『何かの間違いちゃうんですか』
『ホンマに財前ですか』
必死に声を張り上げて肯定を認めないオサムちゃんを、ただただ、見てるだけだった。
ひかる……?
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