Remembered breath | ナノ


 


 16.



2人出逢うことが運命ならば
惹かれ合うことも運命で


所詮定められたレールに沿うしか出来ない非力な僕





fiction.16 defeat





名前先輩は可愛くて、

名前先輩は綺麗で、

そんなあの人が好きだった。




でも今先輩が想うのは自分やない別の男で、俺は独り善がりな想いをぶつけるだけ。
自分でもどうすれば良かったんか、何も分からへんで。分かる事と言えば先輩を傷付けた事、自分の想いは迷惑の何モノでも無い事。



「もう、ええわ…」



自己嫌悪も届かへん想いも、もうええ。所詮は自分が蒔いた種で今更過去に戻れるわけでもない。

何を考えたってどうにもならない現状でしかないのに…それでも頭に浮かぶあの人の顔を消す事は出来ひんのやろうか。



「、あ…」



ズボンのポケットに手を忍ばせれば小さな箱の角が手に当たる。
あの人の“好きな男”になりたくて気が付けば金を出してた自分が居った。

同じ銘柄で、あの匂いに包まれたなら先輩は俺を好きになってくれるんちゃうかって馬鹿な幻想を描いたんや。ホンマ、どうしようもない阿呆な男やねん。

ビニールを開けて箱から一本取り出せばオサムちゃんの匂いがした。この葉っぱが、いつもあの人を纏う薫り。



「…美味いん、やろか」



何でか、
そう聞かれたら答えは「さぁ」

何の為に、
そう聞かれたら答えは「さぁ」

何を思う間も無く、俺は喰わえた煙草に火を点けた。ただそれだけ。



「まっず…」



立ち込める煙は“善い薫り”なんやせんで、口に入る煙は酷く頭を刺激する。
眩暈さえ起こしそうなソレを今すぐにでも棄ててしまいたかったのに、そうすると“敗ける”気がして嫌やった。意味の無い、相手の居ない勝負に。



「香水持って来たっけ」



教室に戻れば間違いなく鼻につくこの匂いを香水で消す以外になくて、鞄に入れた様な入れてなかった様な…そんな暢気なことを考えてる時やった。



『こら!何してるんや!!』

「―――っ」











『テニス部2年の財前か、何で煙草持ってんねん』

「買ったからに決まってるでしょ」

『何でや、って聞いてんねん!』

「さぁ」



校内をうろついてた教師に見つかって生徒指導室へ連れて来られて。
『何で』『何で』そればっかり繰り返す。もうええから。



『ハァ、テニス部も来年は試合辞退やな』

「は?何でですか?」

『連帯責任に決まっとるやろ。大体顧問の渡邊先生があんなんやから部員も真似すんねん』

「俺が学校辞める。それで問題無いはずや」



テニス部が辞退?俺以外の先輩等は何も関係無い。名前先輩やって毎日毎日『頑張ろう』言うてたんや。辞退なんかさせへん。

俺が、悪い。

オサムちゃんなんかに迷惑かけたないねん。



『そういう問題ちゃうやろ?』

「ほなどういう問題なんです?俺が学校辞めたら丸く収まるはずや、煙草吸う生徒なんや居らんって学校側も都合ええですやん」

『…分かったから、とりあえずお前は自宅謹慎しとき』

「…………」



テニス部辞退の話は俺の一存ちゃうねん、生徒指導の教師はそう言って俺を家に帰らせた。

帰って早々親は溜息吐いて『阿呆』って呆れた顔してて、夕方に掛かってきた学校からの電話で『2週間の自宅謹慎処分』と告げられた。

別に辛いとか、悲しいとか、後悔とか、そういう気持ちは無い。学校やって辞めたって何でもええ。
せやけど強いて言うなら…迷惑かけてすんません。名前先輩に申し訳ない気持ちでいっぱいやってん。



「、電話や」



何をするわけでもなく部屋で寛いでると携帯が鳴りだして画面には『部長』と表示されてた。



「はい」

《元気そうやなぁ》

「…お陰様で」



第一声は呆れた様な、それでも安心してる様な、そんな声。



《学校辞める、とか言うたらしいやん?》

「詳しすぎや部長」

《ハハッ、お前がそない責任感あったのが変な感じやわ》

「別に…」

《そんなお前に吉報や》

「吉報て…何ですか」

《お前が反省文20枚書いたらテニス部は来年出場オッケーやって》



勿論お前もな
部長の言葉に歓喜するみたいな変な感情が沸き上がる。どうでもええ、そう思てたはずやのに。



《財前、オサムちゃんが話付けてくれたんやで》

「…………」

《今回は、お前の敗けやな…》

「今回、…」



俺は始めから敗けてたと思う

それは口には出せず部長の電話を切った。





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