15.
これ以上踏み込んではいけないと分かっていても
君が善い
僕には君しか見えない
fiction.15 violation
暫く一緒に居てあげなアカンって思った。寧ろ、そうしてあげる事しか出来ひんって。名前より何個も何個も歳くってたっていざというときに役にも立たへん。
ただ、壁にしかならへんそれが憎々しいくらいやったんや。
『渡邊先生、どうかしたんです?』
「俺のクラスの生徒が悩み事あるらしくて授業も手付かへんみたいで」
『え、進路とか交友関係とかですか?』
「交友、かなぁ……せやから、俺は授業無いんで力になってきますわ」
『分かりました、解決するといいですね』
「有難うございます」
職員室に行って仕事をしてた同僚に説明すると、すんなり話は付いて。ま、嘘は言うてないし?
疑う、なんや微塵にもない同僚に愛想笑いを浮かべて図書室へ戻る。気付かれんで良かったわって思う自分と、何でアイツとの関係に気付いてくれへんのやって思う自分が矛盾して行き交う。
秘密でしかない恋愛は甘くて擽ったいけど、苦くてもどかしい。
認めて欲しいって思うのは贅沢な話やねんなぁ……
「名前、」
図書室から職員室の往復。結局6分経ってしもて1分オーバーしたけど、お前なら許してくれるやろー?オサムちゃん走ること嫌いやのに小走りで頑張ったんやでぇって。
『オサム、ちゃん…』
せやけど、笑って許してくれると思い浮かべてた表情とは正反対で眉を下げた名前。
「怒ってしもたん?」
『え、』
「1分過ぎたー、って怒ってるんとちゃうんか?」
『あ、うん…遅いよ…』
咄嗟に時計を見て時間を確認する名前に、俺を待ってた“5分”なんや忘れてしまっとったんやないかって。
「名前?」
どないしたんや、の意味を込めて名前を呼ぶと、遠慮がちに俺を見て小さい小さい声で“オサムちゃん”って聞こえて俺に飛び掛かる。
「名前…」
背中に回った手は俺のコートを握り締めてて、ぎゅうぎゅうと音を立てそうなくらい俺の胸元に顔を押し付ける名前の頭をそっと撫でてやろうと手を上げた。
その時、
「…………」
突如俺から離れた名前の手と身体、そして背伸びして重なった口唇。
一瞬の出来事に「此処は学校やで」って言う間もなくて、昨日のあの時と同じく女の顔をして俺を映す名前にそんな考えは消え失せた。
歳くってるから何や?
俺やって大人の前に男、教師の前に1人の男やねん。
他の男に好きな女触れられた後で冷静沈着を装ったままで居れるほどの落ち着きなんか持ってへん。
『オサムちゃん、好き…』
「うん、知ってるでぇ?」
『オサムちゃんがいいの』
“お願い”
勝手にそんな解釈をした俺は図書室の鍵を閉めて、本棚に囲まれた大きい机に名前を座らせた。
アイツの頬を持って触れるだけのキス。
何度も角度を変えれば名前の口唇を食べてしまうみたいに甘く噛んで、自然と絡まる舌に頭の中はアイツだけしかなくなる。
薬物にとり憑かれたみたくアイツを求めて侵されていく脳内は好きや。
「名前、俺は“同級生”ちゃうねんで?」
『何、今更…』
「…せやな、今更やんな」
『そんな事どうでもいい…』
壁を打ち消してくれる名前の言葉は俺の背中を押すには十分すぎて。
倒れこむ様に机に寝かせば、首に回された手が愛しくて“何があっても彼女を愛していこう”と誓ったんや。
せやけど、そんな綺麗事を並べたって所詮はただの雄と雌に変わりはなくて、行き着く先は繋がるだけ。それでもその行為こそが俺の幸せで、アイツに与えられる最大の愛情表現やった。
俺の全てを名前に向ける、俺の全てを名前に託す。それしか考えて無かったのに……
『ひ、かる……』
無意識の内に口にしたアイツの声に俺の身体は動く事を止めた。
きっと神様は“許されない恋”を認めてくれへんのや。
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