14.
枝分かれした道に
道しるべがあれば何も迷わないのに
fiction.14 be lost
『俺ん事だけ考えて…』
オサムちゃんに、知られた。
もう全部、終わったと思った。違う人に抱かれたなんてアタシだったら許せない。
理由なんて関係ないの、裏切られた、その感情が沸き上がるはずなのに。
『名前、好きや…』
オサムちゃんはそれでも好きだって言ってくれて。
嬉しかった。
アタシにはこの人しか居ないって思った。
だけど触れた口唇からは生温い液体がじんわり染みて、アタシの味覚を刺激したんだ。
苦くて鉄臭くて、それほどオサムちゃんを苦しめてしまった事が一番哀しい。
「ごめんね…」
『…何で謝るん?』
「…………」
『名前、暫く一緒に居ろっか』
「オサムちゃ…」
な?そうしよそうしよ
優しく笑うもんだから甘えずには居られなかった。
□
『ちょっと職員室行って来るわ。此処で待っとき?』
「うん」
『…名前ちゃーん?』
「…………」
保健室は校医が居るからって、滅多に誰も寄り付かない図書室へ来たアタシ達。
とりあえず職員室に行って上手く話をつける、なんていうオサムちゃんだけど。
『離してくれんと、行かれへんやろ?』
「うん…」
すぐ戻ってくる、って言われたって離れたくなかった。
傍に居てくれないと不安。赤ん坊みたいに駄々っ子なアタシを笑う?だけど笑われたって呆れられたってそれが本心だもん。
『10分で戻って来る』
「長い、」
『んー…ほな5分』
「……分かった」
オサムちゃんのコートを掴んだアタシの手をそっと握って、『行って来るな』って口付けられた額。
あんな後でも幸せで、自然と緩む口角を手で押さえた。
「…どうしよう、暇なんだけど」
何をしたい気分でもない、だけどオサムちゃんを待ってる間は寂しくて気を紛らわせたくて。
図書室なんだし本でも読むべき?
本なんて最近読んだ記憶無いなぁ、なんて本棚に近寄るとドアの開く音。
オサムちゃん?幾ら何でも早くない?
それでも期待して振り返ったアタシは、何で振り返ってしまったんだろうと後悔の二文字。
『先、輩…』
何で、光が居るの…?
嫌だ、会いたくない、今は会いたくないのに。
『先輩、』
「っ、」
光を見ると思い出す。
声を聞くと思い出す。
さっきまで光の腕の中だった事、オサムちゃんへの裏切り。
此処に居たら駄目だ、身体も脳も全身がそう言ってる。
『待って!俺と一緒に居りたないなら俺が出ていく、せやから俺の話聞いてくれへん…?』
逃げ出したい衝動に素直に動く足を止めたのは光で。
「…な、なに…?」
さっきとは別人みたいに切なく真っ直ぐアタシを見る瞳に捕らわれたんだ。
今の光を見ていると思い出すんだ、光を好きだった自分を。オサムちゃんが好きなはずなのに、光から眼が離せない。
勘違いよ、ただ光の話を聞いてあげたいだけ。
そう思い込みたいのに……
『名前先輩が好きです』
「―――――」
それを許してくれないのは光。
「、んで…」
『え?』
「何で今更そんな事言うの…?」
どうして“今”なの?
あの時はアタシを受け入れてくれなかったじゃない。
『………』
「ひかるは、卑怯、だよ…」
『―っ、―――』
卑怯、本当に卑怯で狡い。
“あの日そう言ってくれていたら”
“今頃きっと光と”
そんな事を考えるアタシが一番卑怯なの。
アタシが好きなのはオサムちゃん、光じゃない………
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