11.
何があっても愛してる
そんな永遠の愛なんて存在するはずがない
fiction.11 accuracy
1限目が終わって、2限の準備をしようと鞄を開けたけど。
「あれ、」
そこにはあるはずの教科書が無い。
「げ、部室に置きっぱなしだっけ…」
『名前、げ、とか女の子が言うもんちゃうやろ』
「そんな事言われても」
蔵は呆れた顔でこっちを見てるけど。アタシの独り言に突っ込まないでよ。
『で、どないしたん?』
「教科書部室に忘れた」
『ハァ、教科書くらいちゃんと持って帰り』
「お説教はいいから!部室行ってくるー!」
『授業遅れんように走るんやで』
はいはい、なんて返事をしてアタシは小走りで部室に向かった。
本当はしんどいから走りたくないし、教科書くらいいっか、なんて気持ちもあるんだけど。でも次の授業はオサムちゃん。
昨日の今日で顔を合わすのは少し恥ずかしいけど楽しみにしてたりするアタシは、本当にオサムちゃんに惚れてるんだと思う。…1ヶ月前の自分じゃ想像つかないなぁって。
「とにかく急がなきゃ授業始まっちゃう!」
部室のドアを勢い良く開けてロッカーに一目散。
ロッカーの中は滅多に使わない資料集やノートが積み重なってて、一冊ずつこれじゃないあれじゃないと調べてるのに中々見つからないときた。
「あれー、無い、無い、何処いっちゃったのー!!」
もう諦めるべき?そう思った瞬間、積み重なった教科書の後ろ側に見覚えがある表紙が見えて。
そこに手を伸ばして「あったー!」って息を漏らしたけど、それは声にならなかった。だって、
『先輩、』
「え―――っ、!」
そこには光が居て、気が付いた時にはアタシの上に覆い被さってたから。
何で、光が居るの…?
光は何がしたいの…?
そんな事をグルグル頭に巡らせながら、不意に足が当たってしまって崩れていく教科書の音を聞いていた。
「ひか、る…?…何、どうしたの…?」
アタシの背中にある机が堅くて痛い、光が掴んでる手首が痛い。
光が、怖い。
『………………』
「ちょ、ちょっと光!?止めてよ!何するの――」
骨が悲鳴を挙げそうなくらい強い力で腕を拘束したまま、制服を捲り上げて舌を這わせてくる。
「やだ!光、お願いだから止め『止めへん』」
「…ひか、」
『先輩はオサムちゃんやなくて俺が好きなんやろ』
「…………」
『俺だけ見て――』
睨む様にアタシを見る光が怖くて、抵抗する度に強まる力が痛くて、光の荒々しい吐息が身体に感じる度にオサムちゃんの顔が浮かんだ。
嫌だ、こんなの嫌だ…
「オサムちゃん……!」
□
2限の終わりを告げるチャイムが鳴る頃にはボロボロ溢れてた涙すら枯れてて、部室に漂ってた淫行時の独特な匂いすら消えて、ただ脱け殻な様に茫然としたアタシだけが残されていた。
「教室、戻らなきゃ…」
結局オサムちゃんの授業も受けられなくて、何してるんだろ。
アタシ、本当に何してた…?
「光の匂い…」
立ち上がって適当に制服を整えると、ふんわりと光の香水の薫りがして。
残り香どころか、アタシ自身に染み付いた匂いにさっきの情事が蘇ってきて泣きたくなった。
「…どうしたら消えるの、」
埃を払うみたいに制服を叩いたって消える事なんてないのに。
だけど「消えて、消えて、消えて」そう繰り返し繰り返し叩いてた。
そして3限が始まるチャイムが鳴り響いたその時。
「これじゃ、教室戻れないよ…」
『何してるんですかーこのサボり魔は』
「…オサム、ちゃん?」
ドアにもたれてたオサムちゃんが居た。
『授業出たくないくらい俺の顔見たくないん?オサムちゃん傷付くんやけどー』
「…………」
『名前?』
いつもと変わらない声
いつもと変わらない顔
『幽霊でも見たみたいな顔してどないしたんや?』
「……………」
『サボった事、俺が怒ると思って恐がってたりするん?』
阿呆やなぁ
笑いながら撫でてくれる、いつもと変わらない暖かい手が恋しくて愛しくて、同時に辛くなった。
「オサムちゃん好き…」
『んー、俺も好きやで』
だけど、オサムちゃんの授業を受けずに光と…そう言ったらオサムちゃんはアタシを嫌いになるんじゃないの…?
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