10.
今なら君を誰より愛してると言えるから
だから僕に全てを下さい
fiction.10 platonic love
「名前先輩…」
俺の呼ぶ声はオサムちゃんに笑いかける先輩に届く事は無くて。
小さく吹き続ける風に消されるだけやった。
嬉しそうにオサムちゃんの車に乗り込む名前先輩を見たらそれ以上何も言えへんかってん。
そんな俺を見兼ねてか、部長は俺の肩に手を置いた。
『財前、今から謙也と飯食いに行くんやけどお前も来る?』
「今日は遠慮しときますわ」
『さよか。…あんまり考え込むんやないで』
肩にある手をそのまま頭に持って来て、軽く俺の髪を掴む様に触れた部長の手は照れ臭いけど暖かくて嬉しかった。
何も言わんと理解してくれる人が居てること、それは俺を救ってくれる様な気さえして。
「……………」
せやけど部長に気使わせてばっかりなんもアカン。頭を冷やして一度冷静になろうと、俺はロードをする事にした。
走ってる時、苦しいけど酸素を求める瞬間が意外と気持ち良くてロードするんは嫌いやなかった。別にMっちゅうわけちゃうけど、1人になれて頭がスッキリすんねん。
「…変なとこまで来てしもたな、」
走りながら先輩の事考えてると、いつもは通らへん道まで来てた。
周りは店なんや無くて車や人さえも殆どないのに綺麗に舗装された広い道。此処、次からもロードで走るんにちょうどええかも、とか思いながらもやっぱり名前先輩の事は頭から離れへん。
冷静になった俺の頭は、どうしたら名前先輩を幸せにしたれるんやろってばっかりで。
今俺がアンタに告白したら嬉しい?俺と付き合うて前みたいに笑てくれる?
俺は、先輩が隣に居てて欲しい。
『…や、……』
「、」
そんな想いを巡らしてる中、何処からともなく人の声がして。
こないなとこ通る奴居てるんやんな、そう呑気に思ったんも束の間。
『…ん…やっ…』
「……………」
3メートル前に停まった車からは女の喘ぐ声。
幾ら人が来おへんからって…車ん中でヤんなバカップル。寒いんやから窓も閉めろや。丸聞こえやねん。
こんなん立ち聞きする趣味はない、そう思てまたロードで家まで帰ろうとした瞬間、
『オサムちゃん…』
名前先輩の声が聞こえた。
『…名前、』
『、ん…』
「――――っ…」
聞き間違えなんとちゃう。
先輩の声は確かにオサムちゃんを呼んでて、オサムちゃんも先輩を呼んでた。
車やって、よく見たらオサムちゃんの車…?
「嘘、やろ…?」
茫然と固まってしもた俺の耳には男と女が求め合う淫猥な声が響いてた……
先輩、オサムちゃんと……
自分が愛しく思う人の行為が艱苦で生理的に顰めた眉、震える口、ソレを止める事が出来ひんと何かが俺の中で音を立ててキレてしもた。
□
次の日、体育で外へ出たら部室へと走ってく名前先輩が見えた。
大方部室に教科書を置きっぱなしにしてるとか忘れ物を取りに行ってるか、そんな具合やろ。
「俺、次フケるわ」
『財前またサボり?単位無くなるで』
クラスメイトにそう告げて俺は足を進める。勿論、先輩が居る部室へ。
音を立てへんように中へ入ると『あれー、無い、無い、』と俺に気付きもせずロッカーを漁ってた。
「先輩、」
『え―――っ、!』
そんな名前先輩の腕を引っ張って机に押し倒すと先輩は眼を見開いて俺を映しててん。
『ひか、る…?…何、どうしたの…?』
「……………」
『ちょ、ちょっと光!?止めてよ!何するの――』
動けへんように腕を拘束したまま、制服を捲り上げて先輩の肌に舌を這わせると紅い跡が眼に付いた。見えへんとこに付けるやなんてやらしい男やわ。
『やだ!光、お願いだから止め「止めへん」』
『…ひか、』
「先輩はオサムちゃんやなくて俺が好きなんやろ」
『え……?』
「俺だけ見て――」
『や、いや…!オサムちゃん…!』
うっすら涙を浮かべて別の男の名前を呼ぶ愛しい人を、2限目を告げるチャイムと共にただ夢中で抱いた。
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