09.
君に触れる度に愛しさが募るんだ
きっとこの吐息ひとつひとつ全部を身体が記憶してる
fiction.9 Connected body
俺がテニスコートへ着くと、名前は凄い勢いで走ってて。そない俺に会いたかったん?とかボケかましたのも束の間、アイツは今にも泣いてしまいそうな顔してた。
「名前」
『!』
「凄い顔してるで?その顔はお世辞にもべっぴんやって言うてやれんなぁ」
『オサムちゃ…ん』
何があったんや、なんて野暮な事は聞かへん。言いたい事があるなら自分から言うてくるやろうから。
眉間に手を当てて冗談言うたると、名前は気が抜けた様に口角を緩めた。
『なによ、不細工だって言いたいわけー?』
「そないな事言うてへんやん」
『言ってんのと変わんないよオサムちゃんの馬鹿!』
「せやから言うてへんて。可愛いって思てるでー?」
辛い事があったんかもしれへんけど、俺はお前が笑てる方が好きやから。せやからなんぼでも笑わせたる。
そんな思いの中、名前はまた俺の耳に近寄ってきて。
(世界で1番可愛い?)
調子に乗ってそないな事言うから俺まで笑てしもたやん。
『阿呆』
ソレにはでかい事言うなっちゅう意味を込めたけど、ホンマはそう思てる。他の女よりお前が1番可愛い。
そうやなかったらこない好きになんかならへんわ。
□
『んー…絶頂!』
「その台詞は止めてくれへんか」
『何で何で?いーじゃん別に!』
「思い出したくもない男ん事思い出すやん」
『アハハ!そんな言い方したら蔵が可哀想だよ!』
名前が行きたいって言うてたカフェは満席やったから仕方なく車の中でケーキ食べることにして。
絶頂、なんて叫ぶアイツに年甲斐もなく少し照れた。絶頂とか白石の口からは聞き慣れてるはずやけどめっちゃいやらしいやん。
「白石ん事はともかく、お前が言うとやらしいねん」
『えー何それ!アタシにも色気があるってこと?嬉しい!』
「喜ぶな。オサムちゃんは欲求不満やねんから煽ったらアカンでー」
『プッ!!欲求不満とかウケるー!そんな事言ってからかわないでよー』
からかう気なんやこれっぽっちも無い。身体はお前を欲しがってるんや。
俺が名前の事好きって隠してきたんは自分自身やけど、全く伝わってへんのかと思うと悔しいなぁって。少しくらい、伝わっててもええのに…そう思たら触れたい気持ちが押さえきれへんくて。
「名前、」
『え?』
「生クリーム付いてる」
『―――――…』
独特な粘着ある音を敢えて出して、名前の口元に付いてる生クリームを舐め取ってやった。
「欲求不満や言うたやろ?」
案の定名前は口を開けたまま唖然としてて、その間抜けっぷりに笑いが込み上げた。
なぁ、これで少しは俺ん事意識してくれへん?先生やなくて男やって。
『オサムちゃん…』
「、」
余裕こいて笑てた俺やったけど、アイツの顔見たら余裕なんやそんなん吹き飛んでしもた。
『アタシも、欲求不満かも……』
「……………」
俺の服を掴むアイツは女の顔してて。一線超えたらアカンとは分かってたけど理性なんか簡単に砕けていった。
好きな女にここまで言わせて手出さん奴なんか居てへんやろ。偉いかもしれんけど、男としてどうかしてるわ。
少なからず俺は、もう我慢出来ひん…
「どうなっても知らへんで…」
名前は何も言わんと俺の首に手を回した。
□
オサムちゃん、オサムちゃん、
時折聞こえる俺を呼ぶ声が愛しくて愛しくて、その度に唇を重ねた。
今俺は、全身から幸せが滲み出てると思う。
『…………』
「どないしたん黙り込んで。後悔、してるん?」
『え、こ、後悔なんかしてないけど…』
「けど?」
『なんか…嬉しいのと恥ずかしいのと、変な感じ…』
「……………」
はー、狡いわ。
真っ赤になってそないな事言われたら俺もめっちゃ嬉しなるんやけど。
「名前ー、」
『オサム、ちゃん?』
吸うてた煙草を灰皿に押しつけて名前を抱き締めると、さっきまで繋がってた余韻が復活してくるみたいで頭が熱くなる。
「あんな、遅いねんって感じかもしれへんけど…」
『うん?』
「俺、名前の事好きやで」
『……………』
改めて言うと名前はまた黙りで。
この親父先に言えや阿呆とか思われてるん?
『…いつから?』
「え?」
『いつから、アタシの事好きだったの?』
「さぁいつやっけなぁ…もう1年とかなるかもしれへんな」
『嘘!?』
「ホンマやって」
俺の胸から離れて勢い良く顔を上げて眼真ん丸くする名前は面白可愛い。
『…アタシ、そんな事知らずに光の話ばっかり…』
「ええねん別に。俺やって前まで言うつもり無かったんやし」
『信じらんない…』
「はー?嘘やと思てるん?」
『そうじゃなくて、オサムちゃんがアタシなんか好きになってくれると思わなかったんだもん…』
照れてんのか、視線を外して不貞腐れてる様な名前に俺から耳打ちしてやった。
(今度は、俺ん事好きになって?)
『!』
「な?」
一瞬肩が跳ねたけど、直ぐに顔をくしゃくしゃにしながら笑て、俺にも耳打ちしてくる。
(もう好きになっちゃってるから責任取って?)
そんな名前に俺もつられて口元が緩んでしまう。
「名前、」
愛しい名前を呼んでキスをすれば呼吸すら止まりそうなほど俺の身体は名前を感じてた。
責任なら取ったるよ。
お前が俺を好きやって言うてくれる限りずっと。
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