affection | ナノ


 


 affair.07



ずっと君の隣に居るんだ

それは独り善がりだったと知った





affair.7 doubt






『蔵っ!!』

「名前おはようさん」



朝予備校へ行くと名前が見えたから挨拶したものの。



『それじゃあ僕は行くね』

『あ、うん』

「不二、『また後で』」



不二も一緒やったらしく、挨拶しよ思たら聞く耳持たんと行ってしもた。
…敵には容赦せんっちゅうわけか……ホンマ負けん気強い男やわ。



『蔵、早く教室行こう?』

「、引っ張らんでも分かってるって」

『いいから早く早くー!』



俺の手を握って引っ張ってくる名前に呆れた様な顔する俺やけど、ホンマは嬉しいねん。
繋がれた指から好きが伝わればええのに。こない想ってるんやって事。



「ん。行こか」



ぎゅっと握り返した手は一生離したくない。
もう、糊で貼ってしまえたらええとか馬鹿げた事思うくらい俺は名前に堕ちてるんや。



『今日お菓子持って来たのー!早く食べようよ』

「名前ちゃーん?此処は勉強するとこやねんで」

『じゃあ蔵にはあげない!せっかく昨日ママとチーズスフレ作ったのに!』

「え、名前の手作り?」



教室へ向かう途中の会話はあっさり聞き流せるもんやなかった。

名前の手作りのお菓子とか食べへん訳アカンやろ。



『手作りだけどあげないもん。蔵は勉強してればー?』

「そない冷たい事言わんで、名前ちゃんの手作り食べたいんやけど!なぁ許してー?」

『…そんなに食べたい?』

「うん。超可愛え名前ちゃんが作ったもんは超美味いに決まってる」



やっぱり男って手作りとか弱い生き物やん?
例えどんな仕上がりやとしても好きな女の子からのモノやったら嬉しいし、どんなもんより美味く感じんねんで。



『しょーがないなぁ!許してあげる!でもあーんしてね』

「あーん?俺が名前に?」

『うん!』



あーん、て…
俺は赤ちゃんの母親か。
せやけど何か…美味しい状況やん。アカンわ、想像したらニヤけてまう。



「幾らでもしたる!せやから俺にもしてー」

『えー嫌だー!蔵は自分で食べて!』

「名前ちゃんお願いやってー!」

『やだやだやだー!』



もし、不二が現れて無かったなら俺は今の現状に満足してたと思う。誰より近くに居てる自信があったから。
でも今はやっぱり、俺だけの名前で居ってほしい。





  □





結局自分で食べたスフレ。
まぁめっちゃ美味かったし、名前も可愛かったらええねんけど。
あれがあーんやったらもっと美味かったんやろなぁなんて。

そんな考えで上の空やった授業中、横からノートが差し出された。



「、名前?」



名前はノートを指差してて。
ノート読めっちゅう事?
ノートに眼をやると、『この授業嫌い。先生教え方下手だよね』と書かれてあった。

この子は何してんねん。
「ちゃんと聞いとかな分からへんなるで」そう書いてノートを渡すと、また名前もシャーペン握って書き込んでまた渡してくる。

『うるさい馬鹿蔵』

……馬鹿やと?
せっかくお前の事思て言うたってんのに。

「うるさいってなんやねん阿呆名前」

『阿呆って何よ!』

「自分やって俺に馬鹿言うたやん」

『だって蔵は馬鹿だもん!』

「名前も阿呆やん」



いつの間にか授業そっちのけで俺も筆談に夢中になってた。
こんな変な言い合いでも楽しいって思てるとか名前に言われる迄もなく俺は馬鹿やんなぁ。
そして回ってきたノートには、

『もういい!蔵なんか知らない!』

乱雑に書かれて名前は俺と真逆の方向向いて拗ねくれてた。
あーあ、また怒ってしもた。
こうなったら俺が折れなずっと拗ねてるから適わへんわ。

「ごめん。馬鹿でええから怒らんで。名前は阿呆やない、めっちゃ可愛いええ子やで」

そう書いて名前の前に置くと、横目でノートを見るなり機嫌良さそうに笑てた。
単純な女。せやけど、そういうとこ好きやで。

そして名前がシャーペンを持った瞬間、チャイムが鳴って授業は終わった。



『やっぱりアタシは善い子だよね!』

「よお言うわ」

『何?何か言った?』

「何も言うてません」



授業が終わるなり口を開く名前は笑顔で俺にさっきのノートを渡してきた。



「え、俺にくれるん?」

『違うよ、返すってこと』

「返す?」

『蔵のノートじゃんソレ』

「は、俺の…?」



机の上に広げてたはずのノートは無くなってて、他のページを捲ると俺の字が並んでた。
ホンマに俺のやん…!
いつの間に俺のノート…!



『アタシのノート落書き帳にするわけにいかないでしょー?』

「………」

『アハハ!怒らない怒らない!シャーペンだから消せるでしょ?』



呆れてるだけで怒ってへんわ。消すつもりやって更々ない。
記念にとっといたるわ。



「あ、せや。今日テニスしに行くんやけど来るやろ?」

『光んとこ行くの?』

「1週間ぶりやし部活覗きに行こか思て。昨日謙也から電話あってん」



初めて俺がテニスしに行く言うてから、名前も行くってついてきて今では財前や謙也とも馴染んでる。せやから今日も絶対来るて思ってた。
そら、不二が来るまで青学のマネージャーとは知らへんかったけど。



『ごめん。今日は行けない』

「え?」

『今日さ、ママに早く帰って来てって言われてて』

「あー、そうなんや…」



まさか断られるなんや思わへんかったから拍子抜け、っちゅうか軽くショックやった。
謙也と財前の事気に入ってるみたいやったから今までついて来おへん日なんかなかったのに。



『ごめんね、次は絶対行くから』

「いや、かまへんよ」



お母さんから帰れ言われてんならしゃーないし。
せやけど、妙な胸騒ぎがしてならんかった。何でかは分からへんけど……

もう名前と会われへん、そんな大袈裟な事思てしまうほど。
……気のせい、やんな。





それでも次の日、その胸騒ぎは的中したんや。

予備校に着いて教室に入ると、名前は既に居てて安心した。そしていつもの如く名前に寄りかかってん。



「おはよーさん」

『……蔵、』



名前は嫌な顔してるわけちゃうけど、どこか元気無さそうで。
何かあったんやろか……



「名前、どないした『白石、』」



俺が名前に尋ねてる時、後ろから不二に呼ばれた。
振り返ると不二はニッコリ笑ってて。



「あ、不二、おはよう…」

『おはよう白石』



昨日とは打って変わって笑顔で挨拶してくる不二が逆に怖いとさえ感じてしもたんや。



『名前から離れてくれないかな?そんなにひっつかれると妬けちゃうんだけど。彼氏としては』

「……え?」



今、何て……



『僕と名前、付き合う事になったんだ。だから宜しくね』

「……………」



引き寄せられて不二の腕に収まる名前の姿は、嘘やと思いたかった。





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