affection | ナノ


 


 affair.17



君が好きだから


やり直したいと思った





affair.17 rebirth






僕の眼に映るのはノート。
予備校で授業を写す為のノートだけど、本当に見ているのはあの日のノート。

名前と、ちゃんと向き合おうと思った。
もし、あの日のノートが名前の物だとしたら僕は彼女を知らない間に傷付けてしまっていたから。

今まで自分しか見えていなくて、自分の気持ちを押し付けるだけだったけど…彼女の正直な気持ちを聞いて、もう一度言おうと思う。






『授業終わります、気を付けて帰って下さい』



今日最後の授業を終えて急いで名前の教室へ行こうとすると、『周助』と僕を呼ぶ声がした。
その声は紛れもなく僕が会いたくて話がしたかった本人。



「名前、僕を迎えに来てくれたの?」

『うん』

「今日は約束なんてしてなかったから嬉しいな」

『あ、ごめん…予定とかあった?』

「大丈夫。名前と話したい事があったから丁度良かった」



行こうか?そう言って手を差しだすと、名前は前を向いて気付かず外へ行ってしまった。
気付いてないのか、気付かないフリをしているのか…その答えは解らないけど、冷たく掠める空気が僕の手を包み込んだ。



『周助、話って…』

「ああ、うん。ちょっと昔の事になるんだけど…」



外の寒さに体温が奪われ、カフェでホットティーを飲むと何とも心地よくて。名前もカップを持ったまま口を開いた。
この心地よさにずっと酔い痴れたい、だなんて僕にしては弱気だったんだ。



『昔って、青学に居た頃ってこと?』

「うん…」

『あの時、楽しかったよね…』



名前の表情は懐かしさに浸って優しく笑ってて、曇りなんて見えないけど。



「僕との思い出もそう思える?」

『え?』

「僕は名前のノート、捨てたんだよ?」



あれが嘘なら『何の話?』って笑ってくれるはず。
信じたくないけど、あれが本当なら名前は……



『……………』



視線を外して顔を顰める。



「やっぱり、そうなんだ」

『…………』

「英二から聞いたんだ。僕そんな事知らなくて」

『いいよもう、今更…』

「良くない。僕の話聞いてくれる…?」




あの日…ううん、それよりずっと前。

僕と良く喋ってくれる女の子が居た。彼女はいつもニコニコしてて、名前を想うような感情にはなれなかったけど気さくなところが友達として好きだった。
あんな事を言うまでは。




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『不二君、今日調理実習で作ったの、食べてくれない?』

「有難う、って言いたいんだけど…」

『…受け取ってくれないの?』

「好きな子からじゃなきゃ受け取らないって決めてるんだ、ごめんね」

『名前ちゃんのこと…?』

「バレてるんだ…恥ずかしいね」

『あの子の何処がいいの?』

「え?」

『マネージャーだからって皆に纏わりついて色目使って…迷惑なこと分かってない自分勝手な最低な子じゃない!あんな子居なくなればいいのに!』

「……本気で言ってる?」

『不二、くん…』

「名前を悪く言うのは許せない」

『ち、違っ…私は不二君を、』

「こんな物要らない」


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嫌気がしたんだ。
彼女の本性を知らずに愛想を振りまいてた自分に。だから僕は彼女を徹底的に遠ざける様、彼女が作ったマドレーヌを踏み付けた。
酷い事をしたって分かってる、だけど名前を傷付けるような発言は許せない、僕なりの正義心の現れだった。

そして数日後、部活へ行くところを彼女に引き止められて。
今度は何かと思ったら『大事な話がある』って。てっきり僕は彼女が反省して謝ってくれるんだとばかり思ってたんだ。それなら話を聞こうって。




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『あのね、不二君…』

「何?」

『私、不二君の事が好きなの…』

「……………」

『あとコレ、私の気持ち…』



そこで渡されたのがノートだった。1ページ捲ると授業記録を取った後と、端っこに『好き』なんて書かれてあって。
だから何だって言うの?僕には必要性がない。



「話はそれだけ?僕、部活行くね」



何も知らない僕はノートをゴミ箱に入れて教室を出た。これ以上彼女と話をしたって無駄だって踏んだんだ。



『え、ちょっと待ってよ!』

「僕は名前が好きだって分かってるんでしょう?」

『分かってる、でも言いたかったの…』

「うん。話聞いたから。もういい?」

『…不二君が、ゴミ箱に捨ててくれて良かった!ハッキリ分かったから』

「…………」



彼女はスッキリした顔を見せて走って行った。だけど今思えばスッキリしたというより、嬉しそうな顔だったのかもしれない。
僕に名前のノートを捨てさせたかったのが目的だったなら。


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『…………』

「言い訳、になるかもしれないけど…僕は名前のノートだなんて知らなくて」

『そう、だったの…?』

「辛い思いさせてごめん…僕は本当に名前が好きだったから」

『…………』



一通り話を聞いてくれた名前はカップから手を離して自分の口元を押さえていた。

名前にとっては“善い話”な訳がない。きっと誤解を解く為だと言っても、別のところで嫌な思いをさせてしまってるんだ。
ごめんね。本当に悪いと思ってる。昔も、今も…。



「名前、大丈夫?」

『あ、うん…平気…』

「じゃあ、もうひとつ、聞いて欲しいんだけど」

『まだ、何かあるの…?』



今度は強制だとか、答えを絞ったりしないから



「僕は名前が好きなんだ。白石よりも幸せにしてあげる、もう辛い思いなんてさせないから…」

『………』

「僕と付き合って下さい」



もう一度、チャンスを下さい。

彼女が白石を忘れて、僕だけを見てくれていた日に戻りたいんです。





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