affection | ナノ


 


 affair.18



いつの日か

君と笑い合える日が来ると信じています





affair.18 possibility






幾ら気を紛らわそうと他の事をしても、やっぱり浮かぶのは名前の事だけ。



『下手くそー』

「、った」

『下手くそ過ぎて話にならへんわ』



気が付けば左手にラケットを持ってて、
気が付けばテニスコートに立ってた。

ボールが行き来したんも気付かへんで、無意識の打ちに返したボールはコートの外へ転がってた。



『白石、今日も可笑しいで?』

「謙也のくせに煩いわ…」



ラケットで軽く頭を小突いてくる謙也の手を跳ね除ければ、謙也とは違う溜息が後ろから聞こえてくる。



『部長、格好悪いですわ』



歳上を敬う様子もなく容赦無い言葉に比例して、財前の顔は蔑んだみたいで。

あー腹立つ、とは思っても返す言葉が見当たらんかった。



『遂に、フラれたんや?』

『え、フラれたって名前に!?』

「悪かったな…」



全部見透かした顔の財前に謙也は驚いてて。



『諦めたんです?』

「阿呆、諦めてへんわ」



“好き”な気持ちは諦めるどころか止まらへんっちゅう事、お前が教えてくれたんやろ。
俺より歳が下なくせに大人で間違ってないとこ嫌いやけど尊敬するわ。



『俺、アイツと話したんですわ』

「え?」

『部長の話、聞いたっちゅう事』

「…………」

『名前が何て言うてたか気にならへん?』



勿体ぶらんと早よ言え、っていう謙也に頷く様に俺の心臓はドクン、ドクン、と早く収縮運動を繰り返す。

失恋したのに淡い期待が徐々に膨らんで、“もしかすると”の希望が確実に丸く大きくなっていく。

名前は何て言うたん?
俺が…俺ん事……



『“嫌い”』

「、」

『“蔵なんか嫌い”』



風船が割れたみたく俺の心臓は握り潰された気がした。

キライ

例え恋愛感情やなくても“好き”で居って欲しかった。その願いすら届かへんの?



『…ククッ、冗談や部長』

「は、」

『アイツはそんな事言うてへん』

「冗…談、」

『そういう女ちゃうやろ?それとも信じたん?』



そらアイツはおちゃらけてて、ふざけたとこあって、冗談言うたりするけど人を傷付ける様な事は言わへん。



「せやけど、今は笑えへんかったわ阿呆!」

『すんませーん』

『俺もちょっとビックリしたわ…!』

「今俺が“部長”やったら財前グラウンド走らせるのに」

『残念ですね元部長』



心臓止まりそうになるくらいの告白が冗談でホンマに良かった。
もし名前に嫌いって言われたとしたら…俺はどうやって生きていくんやろうか…考えただけでおぞましい。
やけど、それならホンマの答えは?
アイツは何て言うたんや?



「財前、」

『…聞きたいんです?』

「当たり前やろ」

『今日の晩飯どないしよかなー』

「分かった分かった奢ったる」



財前はしてやったり、口角を上げて『どーも』。ハァ…なんちゅうか、喰わせモノやと思う。
それでも、何をしても名前の気持ちが知りたいという欲は押さえられへんねん。



『“分からん”て』

「分か、らん?」

『自分の気持ち、分からへん言うたんで考えて決まったら好きな男に告白せえって言うたんです』

「…………」



それはつまり、100%俺に望みが無いっちゅう訳ちゃうってこと?



『あ、部長』

「、」

『お客さんスよ』

「え…、不二…?」

『やぁ』



爽やかな笑顔でフェンス越しに立った招かざる客に、俺の未来は委ねられてる気がした。





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