affair.14
振り返る日々なんて意味が無くても
君との想い出は鮮明に僕を彩っているはずだった
affair.14 memory
名前と別れた帰り道、流石大阪と言うべきなのか。
街中でもないのに沢山の人が居て沢山の車が走る。ザワザワ騒がしくて散歩している犬も吠えてて。
耳障りな騒音なのに、今の僕にはちょうど良かった。
「僕って、意外と小心者なのかもしれない」
だって、1人になりたいのになりたくない。
誰にも会いたくないのに誰かと居たい。だからこんな所をフラフラして。
家に帰って孤独になるのが怖いだなんて、僕も馬鹿だな、思わず笑いが込み上げる。
名前は、今何してるんだろう。
ボーッと空を見上げてた時、僕の内ポケットで携帯が振動した。
まさか名前から…?
「……もしもし、」
《あ、不二?》
「うん。どうしたの?」
勢い良く取り出した携帯のディスプレイには菊丸英二と表示されていて、僕が求めた人とは違ってた。
《どうしたの、じゃないよ!俺ビックリして!》
「ビックリ?」
《何とぼけてんのー!不二がメール送ってきたんじゃん、名前と付き合う事になったって!》
ああ、確かに今朝僕は英二にメールを入れた。
“名前と付き合う事にしたよ”
誰かに言いたくて、認めてほしくて。どうしようもない独占欲。
「そうだったね。驚いた?」
《そりゃ驚くに決まってるにゃー、名前と電話した時には何も言ってなかったし》
「フフ、僕も頑張ったって事で」
哀しくない、なんて言えば嘘になるけど。
だけど名前と付き合ってる事実は存在するわけで、それを人に話せる事が嬉しい。僕の名前なんだって堂々と主張出来るのが変な優越感に変わっていくんだ。
《仲良かったもんにゃ、でも不二って本当に名前の事好きだったの?》
「そりゃあ勿論」
《高校の時から?》
「態度に出してたつもりだったんだけど…伝わってない?」
《うーん…や、俺も不二はそうだと思ってたんだけど、》
言葉を濁らせて『うーん』と唸る英二が何を言いたいのか全く想像つかなかった。
だって、僕が名前を好きだって分かってなら他に何があるって言うの?
《不二さ、名前のノート捨てたじゃん?》
「え?ノート…?」
《うん、あの時さ、俺と名前その現場見ちゃったんだにゃ…》
「……………」
正直、英二が何を言ってるのか理解出来ない。
僕が名前のノートを捨てるって、何の為に?そんな記憶は僕の頭に無いし、何で彼女を傷つけるような事をしなきゃいけないの?
《名前が不二の事好きなの知ってたから俺何て言っていいか分かんなかったんだけど、不二の事フォローした甲斐あったかにゃ?》
「フォロー…」
《ま、結果オーライ?でも今名前が白石と仲良いの本当?》
「…そうだね」
《この間の電話の時、終始白石の話だったからこれもビックリしたんだにゃ、まさかあの四天宝寺の部長と仲良くなると思ってなかったし》
終始、白石の話…
《とにかくそっちでも上手くやってるみたいで安心した、それだけの用なんだけどさ》
「、うん…」
《じゃあ俺、今から大石ん家行くから》
「大石に宜しくね」
《オッケー、今度名前と東京帰って来いよー!じゃね》
「…………」
ツーツー、と無機質な音が鳴る中、僕はそこから動けずにいた。
白石の話をしてたこと、それは譲ったとしても…気掛かりなのはノート。
いつの話?名前のノートなんて手にした事すら無いに等しいのに……
「……ノート…?」
ビデオテープを巻き戻す様に記憶を遡らせると到達した景色。
それは僕が一冊のノートを教室のゴミ箱に入れた瞬間。
まさか、あの時の……?
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