affection | ナノ


 


 affair.13



どこまでも続く道をずっと君と居たいと思ったけど


君は僕を否定してしまうんだ





affair.13 It doesn't reach.






《はい?》

「あ、白石です」

《蔵ノ介君!ちょっと待ってね》



名前の家に着いてインターホンを鳴らすと、今では顔馴染みのお母さんが玄関を開けて、どうぞと招いてくれた。



「あの、名前は…」

『帰って来るなり直ぐお風呂入っちゃって。そろそろ上がるはずだからお部屋で待っててもらえる?』

「分かりました、っていつもスミマセン」



大したモノ無くてごめんね、なんて渡されたお盆には紅茶とクッキーが乗せられてた。
いつも俺が来た時はこうやって何か用意してくれて、少なからず嫌われてはないんかなって安心と嬉しさ込み上げるんや。


紅茶を溢さへんように静かに階段を上がって名前の部屋に入ると、投げつけたんか、鞄から散らばった予備校の教科書やノートが散乱してた。

そない急がなアカンくらい風呂に入りたかったん…?もしかして不二と何か…そんな事を考えてテーブルにお盆を置くと、



『蔵…?』

「あ、風呂上がったん?堪忍、急に来てしもて…」



タオルを肩に掛けて、風呂から上がったばっかりの名前が部屋に来た。
名前は俺の訪問に目を丸くしてて。まぁそうやなぁ、連絡せんと来たんなんや初めてやし…今日なんか殆ど会話すらしてへんもん。



『蔵、』

「ん?」

『……会いたかった…』

「―――――」



飛び付いて来た名前は、前みたく笑ってなくて、心なし泣きたい顔してた気がする。

それに会いたかった、って…嬉しい反面心配、してしまうやん…やっぱり謙也と財前と別れた後何かあったん…?



「名前、どないしたんや?」

『……ごめん、何でもない』

「…………」



俺が話を振ると我に返った様にパッと離れて。不二と付き合うてる限り、仲良お出来ひんねんな。

なんやめっちゃ切ないけど、しゃーない事かもしれへん。それに俺は、告白しに来たんやから切ながってる場合ちゃう。



「名前、おいで」

『、』

「頭乾かさんと風邪ひいてしまうで」

『うん…』

「タオル貸し?」

『髪、痛むから優しく拭いてね…?』

「分かってるって」



とりあえず告白より、名前が身体を冷やしたらアカンし髪を乾かす事が先決やねん。

俺にタオルを渡して体育座りする名前から薫るシャンプーの匂いに酔い痴れそうやった。
タオルで撫でてやるように拭く度に名前が愛しくなって、もういっそ酔い痴れてたらええと思ってん。



『蔵って、超能力使えるの?』

「何言うてんねん。大体渇いたから次ドライヤーは?」

『そこのボックスの中』



突発的な発言に笑いそうになりながらベッドの横にあったボックスからドライヤーを取り出して温風を当て始めると、また名前は口を開く。



『だってね、会いたいと思ったら本当に居るんだもん…』

「……俺に、会いたかったん?」

『うん…』



ドライヤーを持つ手を止めてしまいそうになるほど、その一言で舞い上がってしまう俺。
不二やなくて、俺に。そんなん嬉しないわけないやろ?



『今日ね、光と謙也に会ったよ』

「謙也から電話あったで」

『そうなの?光が可愛かった』

「らしいなぁ。財前と謙也、名前ん事好きやから」

『うん、アタシも好き』



分かってる。
その“好き”に恋愛感情なんか無いこと。純粋アイツ等が好きやって言うてることくらい。

せやけど……



「俺は?」

『え?』

「俺ん事は好きちゃうん…?」



俺やって好きやって言うてほしかった。
勿論、友達とか人柄とかやなくて男として。

綺麗に乾いた髪を確認した後、ドライヤーを切ってボックスに戻すと、名前はまた眼を見開いてた。
そんなアイツの頬に手を沿えて。



「俺、名前が好きやねん…」

『……………』

「不二の事ホンマに好き…?」



風呂上がりで暖まった名前の体温は今まで触れた時より幾分熱くて、その温度を俺の手が吸収していく。

俺の体温も感じて。
好きや、その気持ちを全身で感じて欲しいねん…



『……っ、』

「名前…」

『アタシが好きなのは、周助だよ…蔵じゃない…』



俺の手に自分の手を重ねながらそう言った名前の視線は紅茶の方で、歯を食い縛ってる姿は嘘を吐いてるようにしか見えへんかった。



「ホンマの事言うて」

『嘘じゃないもん…』

「名前」

『、っ違う!!蔵なんか好きじゃない!!』

「……………」



俺の手を払い除けた名前の眼から透明なモノが幾つも溢れ出た。

なぁ、何をそない思い詰めてるん?
ホンマに、不二が好きなん…?
俺なんか好きやない、か…


俯くアイツの涙を拭う事も出来ひんまま、俺は部屋を出た。



「フラれた、んやなぁ…」





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