affair.09
君が何をしてても誰と居ようと
僕の頭には君しか居ない
affair.9 irritation
不二と名前が付き合う?
俺の耳には確かにそう聞こえた。
「え…何言うてるん…?」
『聞こえなかった?僕達付き合ってるんだよ。ねぇ名前?』
不二が名前の顔を覗きこんで笑うと、名前は不二の服の裾を掴んで、
『うん…』
「……………」
頷いた。
ホンマに名前は不二と付き合う事にしたん…?
『じゃあ僕は教室に戻るね』
不二が名前の頭を撫でて教室を出ていくと、俺は何も言えへんまま席についた。
隣に名前は座ってるけど、昨日よりも全然遠い距離に感じてアイツの顔を見ることが出来ひんかった。
『蔵…』
「、」
俯いてると名前の呼ぶ声が聞こえて。
『ごめん…』
一言だけ言うて授業は始まった。
ごめん、て…
どういう意味で受け取ったらええん?名前は不二が好きなんやろ…?
何で謝るんや……
□
「…………」
『…………』
『…………』
あれから休憩時間毎に不二は俺等の教室にやって来て名前と喋ってた。
2人が気になって気になってしゃーない俺がそっちに目をやった時、不二が俺を見て笑って顔は皮肉そのものやってん。
どうにも出来ひん嫉妬と焦燥感だけが俺の頭で渦巻いてた。
『なぁ謙也先輩、あの人どないしたん?』
『分からへん。待ち合わせしてからずっとあの調子で溜息ばっか吐いてんねん』
『辛気臭…』
『白石でも落ち込む事の1つや2つあるって…って財前!何処行くんや!』
テニスしたら少しは気が紛れるやろかって謙也誘て部活に顔出したけど。それでも名前のことは頭から離れへんかった。
何でこないな事になったんやろ、そう思た瞬間『部長』という声がして俺の足元に影が出来た。
「財前、」
『テニスコートで溜息吐きまくるん止めてもらえます?』
「溜息くらいええやろ…っちゅうかお前も俺に構わんと部員の世話しいや部長やろ」
『生憎俺も引退したんで部長ちゃいますわ』
そういやそうやな。大会終わったら引退やっけ。そんな事すら頭から抜けてたわ。抜けてたっちゅうか…名前以外の事考える余裕なんや無い。
『なぁ部長、最近名前見てへんけど何してんねんアイツ』
「……名前はもう来おへん」
『は?』
『ちょ、白石!どういう意味や!?』
「アイツ、不二と付き合い出したから此処には来おへんわ…」
“次は絶対行くから”
そう言うてたけど、来る事なんや無いと思う。
さすがにソレには財前と謙也も目を丸くして驚いてた。
『不二って…青学の…?』
「予備校、一緒で…名前も高校ん時青学通ってたらしい」
『せやけど名前が不二と…?』
「昨日から付き合うてるらしいで」
何で俺の口から他の男と付き合うてるとか言わなアカンねん。
めっちゃ、悔しい……
ハァ、と無意識にまた溜息が出た時、財前が持ってたラケットが勢い良く俺の顔に振り落とされた。
「!!」
『財前!危な……!』
『……………』
振り落とされたラケットは俺に当たる1センチギリギリのところで寸止めされて、ビックリした俺が財前を見ると眉間にシワを寄せて睨み付けた様な顔してた。
『部長』
「………」
『アンタ名前の事好きなんちゃうかった?』
「財、前?」
『高校で一緒やったんか知らんけど急に出て来た男にあっさり持っていかれて悔しないん?』
「な、そんなんお前に言われたない!」
悔しい、めっちゃ悔しいわ…!
今までアイツの隣に居ったんは俺やねん。よっぽど用事が無い限りいつも一緒に居てた。少なくとも不二より近いはずやってん!
せやけど俺にどうせえって言うんや……
『せやったら盗り返しや。自分の気持ちぶつけるくらいの根性あるやろ』
「…………」
『今日はテニスにならへんわ。謙也先輩、帰りましょ。ショップ付き合うて』
『は、ちょ、財前!?』
財前は謙也を引っ張って行ってしもた。
「…言うてくれるやん」
確かに俺は現実を受け入れるのが嫌で嫌で動くことが出来ひん弱い男やった。
せやけど眼覚めたわ。
結果はどうあれ、俺にはやらなアカン事がある。
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