affair.10
君を幸せにしてあげる
それは間違いじゃないと信じてる
affair.10 overbearing
「名前、帰ろう」
『うん』
予備校が終わって教室へ迎えに行くと白石も他の生徒も皆帰った後だった。
「白石帰ったの?」
『うん、多分…』
「そっか。寂しい?」
『え、別に寂しいなんか…』
敢えて白石の話をしてみると、案の定名前は顔を曇らせた。
でもね、白石なんて忘れるくらい僕に夢中にさせてあげるから。
「名前、」
『、』
「これからは僕とずっと一緒に居てね」
『うん…』
抱き締めてあげると擽ったそうに胸元に顔を埋めてきて。ほら、やっぱり僕が好きでしょう?
白石にだって付き合ってる事を明確にしたわけだし、もう邪魔なんて何も無いんだって信じてた。
ただ、僕が彼女を愛してあげるだけでいいと。
□
『周助、アレ食べたい』
「アレって…肉まん?」
『うん!』
帰り道、コンビニの貼り紙を指差す名前は眼をキラキラさせながら僕を引っ張っていて。
昔から食べ物には眼がなかったんだっけ、なんて笑いが込み上げた。
「いいよ、買ってあげる」
『本当?』
「肉まん買うお金くらい持ってるよ」
『肉まんだって100個買ったら凄い金額になるんだから!』
「100個も食べないのにそんな事言わないで」
『食べるかもしれないじゃん』
つまり肉まんを馬鹿にするな、って言いたい名前が本当可愛くて。
「分かったから。ちょっと待ってて」
そう言って頬にキスすると名前は眼を見開いて固まってた。
本当、一々反応が可愛いよね。癖になっちゃいそう。
「はい、お待たせ」
『わーい有難う!』
勢い良く肉まんに噛り付いて美味しいーなんて言われると僕まで嬉しくなっちゃう。
やっぱり名前が好きだなぁって。
そんな幸せボケしそうだった僕なのに、
『名前?』
『え?』
『お前何してんねん!』
後ろから声を掛けてきた2人組。
1人は四天宝寺のジャージを着てて、もう1人はラフな服だった。
この2人、見たことある…
『あー!謙也!光!』
名前は2人を見た瞬間、嬉しそうに飛び付いて行った。
“謙也”に“光”?
氷帝の忍足の従兄弟と2年でレギュラーだった財前…?
『アタシ肉まん食べてるのー!』
『見たら分かるわ』
『何よ謙也のくせに!』
『っちゅうか名前、』
『うん?』
財前が僕の方を見て名前を引き寄せる。
何、僕に喧嘩売ってるつもり?
『浮気すんなや。俺が部活忙しいからって』
「!」
『はー?浮気なんかしてないもん。光はアタシの事好きじゃないくせにー』
『めっちゃ愛してるで』
『うわ、財前寒っ』
僕を無視してそんなやり取りするのは凄く腹が立つけれど、ここで目くじら立てたら相手の思うツボ。きっと彼は白石の味方をして僕を煽ってるんだ。
『謙也黙って!アタシも光愛してるー!』
『せやろ?やから今からショップ一緒に来てくれへん?』
『うん!行きた……あ、』
罰が悪そうに僕を見る名前。
ごめんね、今回は引かないよ。
「名前、行こう?」
『うん…』
『もしかして青学の不二さんちゃいますー?』
『おい、財前、』
「…だったら何かな」
分かってるくせに。
善い性格してるよね、白石の後輩は。
『名前も行きたい言うてるしちょっと貸してくれません?』
「悪いけど今度にしてくれない?付き合って初めてのデートだから」
『そら悪い事言いましたね、すんません…せやったら、』
「………」
『今度俺と試合して下さいよ。青学の天才って呼ばれてた男と勝負してみたいんですわ』
「…そうだね。君も天才って言われてたんでしょ?僕も試合みたいよ」
『ほな、日改めて宜しくお願いしますわ。名前、またな』
『光…』
『今度顔出すんやで!』
『謙也……』
手を振って背中を向ける2人を名残惜しそうに見つめる名前。
ねぇ、名前は青学のマネージャーだったんだよ。何でそんなに四天宝寺に構うの?
僕だけを見てよ。
「名前、」
『え――――……』
突如触れた唇は甘くて柔らかくて、もう離したくないと思った。 だけど彼女は僕の胸を叩いて抵抗してたんだ。
そんな抵抗、僕には効かない。
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